――――音が聞こえる。
荒く乱れた呼吸音、濡れた指先を耳に入れて動かした時のような水音。
そして時折交じるのは、高い音域の嬌声。
豪奢な天蓋付きベッドの中央に、声の主は存在していた。
銀の髪をベッドの上に広げ、尻だけを上げてうつ伏せに寝そべって。
全身を薄紅色に染めながら、目尻に涙を湛えて瞳を閉じるその姿は、何かに耐えているというよりは夢中になっているように見受けられる。
事実、少女は先程から視覚を閉ざし、神経を総て己の秘部へと集中させていた。
もっと正確に言うならば、己の秘所を突き割って侵入してくる剛直の感触に。
「……ぁ、は」
背後で一心不乱に己の肉体を貪る男の動きに合わせ、そのか細い喉からは声が漏れ出る。
そこには恐怖や嫌悪といった感情は乗っておらず、少女がこの交わりを肯定的に受け入れているということが伺い知れた。
(ああ、良い……凄く、良い)
男の剛直が己の、年齢に不釣り合いなほど発達した胎の中を動く度に柔肉は擦れ、無数のヒダが肉を逃すまいと淫らに絡みつく。
最奥をノックされるたび、陰核に微弱な電流を流されたかのような快感が走り、脳に悦楽が舞い踊る。
そうしてより一層、自らを犯し汚すものを欲して収縮し、腰がくねる。
それに呼応するかのように男の動きも加速し、乱暴に突き入れるようなものへと変わる。
その度に、少女の身体は快楽に身を跳ねさせるのだ。
「ぁ、き……て。ぜんっぶ……全部っ、ちょうだ、い……!」
息も絶え絶えに絞り出された懇願の言葉は、元々残り少ない男の理性をさらに燃焼させるには十分すぎた。
より一層の高度と熱を持って、いよいよ限界に近づいた男のモノが、胎内で大きく跳ねた。
「ぁっ、ぁ……!」
本能のままに最奥へと密着させられ、火口と化したソレから容赦なく白濁とした欲望が注ぎ込まれてゆく。
僅かな変化も逃さぬように作られた胎は、その熱さをも快楽として少女の身体に叩きこみ――――
「――――ッ!っっ!」
絶頂へと導いた。
放出された精を一滴残らず絞りとるかのように、膣内はきゅうきゅうと締め付ける力を増し、陰茎の形すらも明確に感じとる。
その感覚がなおも少女の脳へと快感を送り込み、休む間もなく連続して身体が小刻みに震えて跳ねる。
肺からは酸素が失われ、窒息寸前の魚のように口はだらしなく開き、声にならない声と涎がこぼれ落ちた。
一分ほどの硬直の後、両者の身体から力が抜けてベッドへと倒れこんだ。
けだるい身体をなんとか動かして仰向けになれば、先程まで見えなかった男の顔が近くにある。
ほのかに膨らみ始めた胸は何度も上下を繰り返し、荒れた呼吸を必死で整えるべく活動していた。
未だ呼吸が整わぬままだと自覚しながら、それでも少女はためらい無く己の唇を男の唇と重ね、互いの口内を貪り合う。
そうして顔が離れ、少女は男に――――
「まだ、頑張れるわよね?」
妖艶な笑みを浮かべながら、続きを求めるのだった。

――――
今のは
――――

映画のワンシーンのような場面のフラッシュバック。
それが突然に途切れ、気がつけば視界は闇で全てが埋め尽くされていた。
「お目覚めかしら、マスター」
背後からかけられた声に振り向けば、そこには緋色の外套――――7つの首と10の角持つ獣で作られた――――を羽織った少女が立っていた。
白昼夢の中に映っていた少女と全く同じ姿の彼女。騎兵のクラスとして呼び出されたサーヴァント。
「少し刺激が強かったかしらね?」
淫蕩と名乗った彼女は、弓なりに目を細めてクスクスと笑う。
「あれは私の記憶。いつのものかは思い出せないけどね」
大娼婦バビロン。ヨハネ黙示録にその名を示された存在。バビロンの娼婦全ての母であり、神によって罰される罪深き女。
その伝承が近代において新たな信仰として人々の念を集め、生まれた反英霊。
あまねく全ての生命を犯し、享楽に沈めて溺れさせ、魂を腐らせるモノ。
「他にもあるわよ?」
そこからは洪水のごとく一瞬。複数の男に貫かれて恍惚の笑みを浮かべる姿、少年の母親代わりとして振る舞いながら、獣欲を躊躇いなく受け入れて乱れる光景。
同じ少女を言葉巧みに誘導し、手籠めとして汚し、一方的に陵辱を行っている場面。ありとあらゆる姦淫の情景が雪崩のように入り込んでくる。

――――
これ、は
――――

「おおよそ全て私が行い、これから行うであろう不義と姦通の数々」
そして哀れな犠牲者にして道連れの皆さん、そう言って彼女は再び笑った。
「ねえマスター?あなたはそれでも私を使役し、人理の修復を図るというの?」
気がつけば、一糸まとわぬ姿の彼女が眼前に迫ってきていた。
「それは途方も無い困難を伴うものだわ。多くの血が流れるものだわ。無数の悲しみと出会うものだわ」
華奢な体躯であるはずなのに、どういう訳か容易く押し倒されてしまう。
「あなたの心は傷つくでしょうね、あなたの身体は傷つくでしょうね」
なれた手つきで上半身を脱がされた。
「そんな辛い旅なんてやめて、ここで私と過ごさない?」
素肌を晒した彼女が倒れるように抱きついてくる。膨らみかけの胸の感触が直に伝わってきた。
「何もかもを放り投げて、忘れて、一緒に気持ちよくなりましょう?心地よさに包まれましょう?」
耳元で諭すように囁かれ、身体が熱を持つのを感じる。
「ねえ、マスター……しましょう?」
額と額が接触し、人形のように整った彼女の顔で視界が埋まる。その瞳に映るのは、ほかならぬ自分の姿だ。
「ダメ?」

――――
それはできない
――――

瞳に映る己を、その奥にいる彼女を見据えて、はっきりと伝えた。
そんなことは出来ない、してはいけない。
「そっ、か……」
気がつけば風景は転じており、彼女も衣服を着た状態で己から離れていた。
「……本当に良いのね?私を使役することに後悔はない?」

――――
ない
――――

断言する。
「ふふっ……♪」
彼女は何故か嬉しそうに笑うと、改めて自分に向き直って。
「ええ、ええ。あなたはとても素敵な人。同罪にするには惜しい人、だけど溺れさせてみたくなる人」
スカートの裾を摘んで軽く持ち上げ、淀みのない動作で一礼。
「サーヴァント、クラスはライダー。名は淫蕩。なんなりとご用命を、我がマスター」
そうして、とびきり魅力的な笑顔を見せて――――
そこで自分の意識は途切れた。

――――
夢?
――――

意識が戻ってみれば、そこはカルデアの自室だった。
どうやらいつの間にか眠っていたらしい。
時刻はまだ朝には少し早い頃合いだ。けれど二度寝するには短い時間。
だからと言うわけではないが、今日は少し早く活動するのも悪く無いと、着替えて部屋を出たところで。
「おはようございます、マスター」
背後からかかる、声。
「今日も一日、よろしくお願いしますね」
振り返れば緋色の外套を纏った少女が、明るい顔で微笑んでいた。


END

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