「君らは何の為に世界を滅ぼすんだい」

虫一匹殺せなさそうな風貌の優しい男は虫の息で天を仰ぎながら
まるで、死ぬ事は怖くないかの様に穏やかな声でそう呟いた
対峙するのは同じく満身創痍な炎に包まれた女

「……………わからないわよ、そんなこと」
「そうか、わからないんだね、それなのに君は世界を滅ぼすんだ」

胸が締め付けられる。
男の言葉には攻める気は一切無いとわかるからわかってしまうから
その言葉に余計に苦しくなる

「僕はね不思議なんだ、この戦争にやって来る人は封印されていた怪物だったり、神様だったりするけど
君は封印なんてされていない、実はいつでも此処に攻めに来れたはずなんだ、それなのに今まで攻めて来なかった、それは何故だい?」

「そんなの巨人達だけじゃ戦争に勝てる訳が無いからに決まってるでしょ」

「……それもそっか」

納得したように一言、呟いた男はゆっくりと目を瞑る
それを見届け、女はその場を去ろうとする

「あのさ、最後にお願いがあるんだけど」

立ち去ろうとした女に男は目を瞑ったまま、声をかけた


「……何よ」

「君はきっとこの世界を滅ぼすだろう
けれど、けれどね?もしも世界がまた存続して、次に滅びの危機にあった時、君がその滅びに関われたのなら」

前提がクソ長いし、周りくどいが最後の言葉くらいは聞き届けてやろうと思った
それが命を奪った者の務めだから。
だから、どんな怨みの言葉でも、願いでも叶えてやろうとも思っていた
ーーー続く言葉は、予想外のものだったが




「今度は世界を救って欲しい」




「………は?」

「うん、それが僕のお願い……それじゃ頼んだよ」


言い残すと逃げる様に男は息を引き取って
その真意も理由も何も教えてくれなかった。

女はその言葉の真意を考えながら戦場を歩き出す。
周囲はまるで地獄の様な怒号と地響きに包まれていて。

仲の良かった、同胞の巨人達が倒れるのが見えた
敵達の怨み声や悲鳴、怒りの声が絶え間無く聞こえてきた
美しかったであろう景色が荒れ果てているのが見えた


ーーー私は何の為に生まれて来たのだろう


生まれた時から、この日の事は使命として頭に刻まれていた
それまで、生まれた場所から離れてはいけないとも刻まれていた

けれど、他の事は好きにして良いみたいだったから
生まれて来た新しい世界を見守った
神々の冒険や偉業も、英雄達の生き様も何もかも、我が子の様に見守らせて貰った
ムスペルヘイムに生まれた同胞達と愉快で楽しい日常を送った

ーーーそして、この日が来た、神々の黄昏、最終戦争ラグナロクが
女は巨人達を連れて、使命の通りに嬉々としてアースガルズを攻めた


それが女の生きて来た意味だから


ーーーその結果がこれだ


愛おしい世界は荒廃し、燃やし尽くされていく
愛おしい生き物達は死に絶えていく


ふざけるな、ふざけるな、これが使命だとは認めたくない、認められない
止めろ、止めるんだ

意思とは裏腹に無情にも女は世界を焼き尽くしていく
既に女の身体は使命を達成する為に自動的に動く機械となっていて

女の身体と心が完全に別離した中
女の頭の中を巡るのは殺した男の言葉だった


「君らは何の為に世界を滅ぼすんだい」


ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい


「世界を救って欲しい」


懺悔と後悔で埋め尽くされた頭の中
男の最後の言葉が一筋の光の様に、負の念を払拭した

それは 希望/呪い

これからの私がするべき新たなる使命
私の意思で決める新しい、生まれて来た意味


女の身体が世界を滅ぼさんと最後の一振りを行った
世界は一部を残して焼き尽くされ
再生の海が九つの世界を飲み込んだ

そうして、女は命を落とし









「こうして、カルデアに召喚されたって訳よ」


私はメロンジュースを飲みながら、淡々とマスターに応える
自分の人生の話なんぞ、誰にもしたくは無かったが、ここまでしてくれたマスターには別だ
聞かれてしまったのなら、答えてあげよう


「って訳で、私の願いは世界を救う事よ、今後ともよろしくね、マスター♪」

まあ、当のマスターは既に興味を失ったみたいで
ソーシャルゲームをやり出して居るのだが……やっぱり燃やそうかしら

このページへのコメント

あっ……これ、切ない……!
ぐだ子もこれゲームやってるけどちゃんと聞いてる感じのアレですね!私には分かる!

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Posted by 暗兵・盛衰 2016年08月16日(火) 17:42:31 返信

スッ……(無言の修正)教えて頂き、感想をくれてありがとうございます!

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Posted by 剣兵・滅炎 2016年08月16日(火) 17:36:50 返信

ムスペルヘイムです(小声
いい感じの独白で真剣味がある、なかなかないことでしょう。(ここでは
しかし世界滅亡の危機でもソシャゲーは運営しているとは……

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Posted by 弓兵・流姫 2016年08月16日(火) 17:33:07 返信

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