鼓動が収まらないのを感じながら早足で廊下を歩く。

「何をやってるんだ私は…」

自分に対しての苛立ちを隠せない表情をしているんだろう。

事の発端は あの女…いや諸事情で女になってしまった元男…もうこの際女でいいだろう。

性転換する人間など初めて見るから、生物学的に興味をひいてしまった。

それが不味かったのかもしれない、いつの間にか彼女に情が出来てしまった。

この場所ではそういうのは作らないと心に決めたはずだというのに。

それにあの女は私に抱き着いたり、他の人間に羞恥心なくスカートの中身を見せようとしたりと困ったもんだ

だから隙が出来て不死の者やあの変態という名の王に好き勝手されるんだ。

それで……私は何をしたかというと、彼女を抱きしめ撫でていた。

今思えば何やってるんだという感じだがあの時は昨夜のこともあって、何か仕返しでもしたかったのだろう。

しかし彼女は嫌がりもせず受け入れた。正直嫌がって欲しかったんだが………。

そして何故か私は彼女を―――――愛おしく感じてしまった。

馬鹿か? 奴は元男だぞ、それに男にあそこまで戻りたがってる人間を。

だというのに私と来たら…まるであの女を襲った奴と同じじゃないか。

『お前が人を愛するだと?』

どこからともなく聞こえる声にびくりっと身を震わせる。

『私達の日常を奪ったのに?』
『俺達はただ暮らしてただけだというのに?』
『お前のせいで奪われたんだ 何もかも』
『妻への恨みで世界に喧嘩を売った筈のお前が何故他の人間を愛そうとする』
『人殺しが』
『悪魔が』
『お前は神にでもなったつもりか 大罪人』
『私達は君を…恨み続ける…!』
『恨んでやる』『恨んでやる』『恨んでやる』『恨んでやる』『恨んでやる』

頭の中から聞こえてくる憎しみが連鎖する声。

あぁ、そうだ……これでいいんだ。とても心地がいい。

高揚した顔も早い鼓動も元に戻り、この場所で私に対して掛けられてきた言葉がすべて消えていく。

だがあの女を抱きしめている時に聞こえて欲しかったんだが…まあいいか。

本来私の戦いはあの時全て終わった筈なのに…私はまだこの場所にいる。

だから息苦しいんだ、このカルデアという場所が。

そういえば鎮西の女神の三女が言っていたな。

貴方の後ろには誰にもいない…貴方が憑りつかれてると思い込んでるだけだと。

「例えそうだとしても…そう思い込まなきゃ生きていけないんだよ…」

私は誰もいない廊下をゆっくりと歩き出した………………

このページへのコメント

ところで彼女とはいったい誰なんだ?

作成お疲れ様でした!文字の色とそれにつれて大きくなる文字に驚きつつも、緊迫とした雰囲気が現れる暗さ、面白かったです!

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Posted by 狂兵・結械 2016年08月29日(月) 22:27:08 返信

『…』特等は、そっとしておこうと思った

あの悲劇からこの緊迫した文章、よかったです

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Posted by 弓兵・特等(秩序・中庸) 2016年08月29日(月) 20:52:31 返信

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