最終更新:ID:nXyqoEQCyw 2016年08月23日(火) 13:25:46履歴
時間は月が闇を照らす深夜、第一特異点攻略後にカルデアには英霊達へ支給された仮住居がある
殆どが一人部屋ではあるものの共同住宅となっている場所もあり、そこの個人部屋の一角に場所を移す
目立つものはコーヒーメーカーに詩集と短編集を収めた本棚、机と寝台の簡素な室内をランプと月が照らす
机の上の白紙を前に、一人の男が表情を変えずペンを手に静止したまま数分が経っていた
名前は有馬貴将、性別は男、12月20日生まれのいて座、享年は33歳
元喰種対策局〔CCG〕捜査官、任務にて殉職し最終階級は特等捜査官
現在はカルデアに召喚され弓兵のサーヴァント、そして抑止の守護者の一人
「・・・ダメだな」
傍らの温くなったコーヒーを飲む、己の過去と現在を振り返るも何も思いつかない
生前対策局でも遺書を書くことは義務付けられていたが、結局は白紙のまま最後を迎えた
…しかし今書こうとしているのは遺書とは別の代物、いうなれば自分への思い書きである
あのコクリアでの最後からこのカルデアに呼び出されるまで、俺にしか知りえない空白がある
抑止の守護者──言うなればヒトを存続させる為にヒトの不利益を消すための世界の道具
血を失い意識が遠退いて逝く中で、なぜそんな存在となったのかはハッキリと思い出せない
しかし死後の末路も何も変わらず、世界を壊すために騙し生きたヒトモドキがヒトの守護者
そして世界を救う”奴隷”としてここに呼ばれた──皮肉が効いているとしか言いようがない
それでもカルデアでの生活は生前と別の意味で初めての経験ばかりが多く、楽しいと思える事もあった
生前の定めから開放された事で、日常の何気ないことを楽しむ余裕が俺にもできたとも言える
神や動物に概念という様々な英霊達との交流もそう悪いものではない、教えられることも多々ある
だが、それでも多少は不快になる事もあった、らしくなく饒舌になるほど冷静さを欠いたのも初めてだった
心の贅肉と言うべきだろうか、俺自身こんなことで弱くなってしまったのだろうか?と思う事もある
そして今更なんの為に強くなるんだ?というジレンマさえ感じられてしまう、本当に生前とは大違いだ
だから俺が最初に出会った英霊の一人、今は同居人として世話になっている男に相談してみた
『んー…あんま難しく考えんでよ、とりあえず良いこと悪いこと含め今思い返すのもアリなんじゃねえの?』
『悩めるようになったのは言うなればアンタにとってもチャンスかもしれないさ、だったらそれでいいじゃねえか』
というのがコレを書く一つの切欠になったんだろう、彼の世話焼きの気質は富良君や郡に似たモノを思い出す
”喰種とは話すな”と言っていた前の自分と本当に変わった、だが喰種抜きにしても彼はいい人?であると感じる
そしてもう一つの、切欠となった言葉を思い出す
≪生きていれば必ず何かは残せます。それが良いものであれ悪いものであれ≫
≪誰かの言いなりで奪ってきたとしてもその行動で奪う事を強いた者達以外にも何かを得た者はきっといたはずです≫
≪だからこそ、特等様はそんなにも残してきたモノが思い浮かぶのだと思います≫
結局、あの世界で俺が残したのは守るべき人類への裏切りと、隻眼の王という呪いと欺瞞の玉座でしかない
タケと0番隊にはハイセ…いやカネキケンに俺が敗れたなら、合流し逃走を協力するよう手筈は整えておいた
運が良ければエトとも合流し”王”の真実が伝えられる、俺の”息子”なら必ず意思を継いでくれると信じている
苦難と悲劇しかなくとも超えられるように、そんな教育しかできなかったのは”親”として失格なんだろうか
…しかし、タケに渡して結局つけてるのを見せられなかったな…ネクタイピン、それだけが心残りなのか
”僕には何もないけど・・・これで結構幸せなんです”
ああ…何もなかったのは俺も同じだった、だが君に与え、俺に与えられた繋がりを嫌だと思ったことはない
あの世界に残したもの、ここで残していくものを考えていくと全て忘れるなんて俺には土台無理な話になった
「…とりあえず書き出しは決まったな」
そう言い俺はペンを走らせる、過去との決別ではない、あの懐かしき思い出を忘れないという想いを込めて
拝啓 今は―――…
end
殆どが一人部屋ではあるものの共同住宅となっている場所もあり、そこの個人部屋の一角に場所を移す
目立つものはコーヒーメーカーに詩集と短編集を収めた本棚、机と寝台の簡素な室内をランプと月が照らす
机の上の白紙を前に、一人の男が表情を変えずペンを手に静止したまま数分が経っていた
名前は有馬貴将、性別は男、12月20日生まれのいて座、享年は33歳
元喰種対策局〔CCG〕捜査官、任務にて殉職し最終階級は特等捜査官
現在はカルデアに召喚され弓兵のサーヴァント、そして抑止の守護者の一人
「・・・ダメだな」
傍らの温くなったコーヒーを飲む、己の過去と現在を振り返るも何も思いつかない
生前対策局でも遺書を書くことは義務付けられていたが、結局は白紙のまま最後を迎えた
…しかし今書こうとしているのは遺書とは別の代物、いうなれば自分への思い書きである
あのコクリアでの最後からこのカルデアに呼び出されるまで、俺にしか知りえない空白がある
抑止の守護者──言うなればヒトを存続させる為にヒトの不利益を消すための世界の道具
血を失い意識が遠退いて逝く中で、なぜそんな存在となったのかはハッキリと思い出せない
しかし死後の末路も何も変わらず、世界を壊すために騙し生きたヒトモドキがヒトの守護者
そして世界を救う”奴隷”としてここに呼ばれた──皮肉が効いているとしか言いようがない
それでもカルデアでの生活は生前と別の意味で初めての経験ばかりが多く、楽しいと思える事もあった
生前の定めから開放された事で、日常の何気ないことを楽しむ余裕が俺にもできたとも言える
神や動物に概念という様々な英霊達との交流もそう悪いものではない、教えられることも多々ある
だが、それでも多少は不快になる事もあった、らしくなく饒舌になるほど冷静さを欠いたのも初めてだった
心の贅肉と言うべきだろうか、俺自身こんなことで弱くなってしまったのだろうか?と思う事もある
そして今更なんの為に強くなるんだ?というジレンマさえ感じられてしまう、本当に生前とは大違いだ
だから俺が最初に出会った英霊の一人、今は同居人として世話になっている男に相談してみた
『んー…あんま難しく考えんでよ、とりあえず良いこと悪いこと含め今思い返すのもアリなんじゃねえの?』
『悩めるようになったのは言うなればアンタにとってもチャンスかもしれないさ、だったらそれでいいじゃねえか』
というのがコレを書く一つの切欠になったんだろう、彼の世話焼きの気質は富良君や郡に似たモノを思い出す
”喰種とは話すな”と言っていた前の自分と本当に変わった、だが喰種抜きにしても彼はいい人?であると感じる
そしてもう一つの、切欠となった言葉を思い出す
≪生きていれば必ず何かは残せます。それが良いものであれ悪いものであれ≫
≪誰かの言いなりで奪ってきたとしてもその行動で奪う事を強いた者達以外にも何かを得た者はきっといたはずです≫
≪だからこそ、特等様はそんなにも残してきたモノが思い浮かぶのだと思います≫
結局、あの世界で俺が残したのは守るべき人類への裏切りと、隻眼の王という呪いと欺瞞の玉座でしかない
タケと0番隊にはハイセ…いやカネキケンに俺が敗れたなら、合流し逃走を協力するよう手筈は整えておいた
運が良ければエトとも合流し”王”の真実が伝えられる、俺の”息子”なら必ず意思を継いでくれると信じている
苦難と悲劇しかなくとも超えられるように、そんな教育しかできなかったのは”親”として失格なんだろうか
…しかし、タケに渡して結局つけてるのを見せられなかったな…ネクタイピン、それだけが心残りなのか
”僕には何もないけど・・・これで結構幸せなんです”
ああ…何もなかったのは俺も同じだった、だが君に与え、俺に与えられた繋がりを嫌だと思ったことはない
あの世界に残したもの、ここで残していくものを考えていくと全て忘れるなんて俺には土台無理な話になった
「…とりあえず書き出しは決まったな」
そう言い俺はペンを走らせる、過去との決別ではない、あの懐かしき思い出を忘れないという想いを込めて
拝啓 今は―――…
end
このページへのコメント
作成お疲れ様でした!
過去を思うからこその独白、素敵です!
特等!!!一緒に頑張りましょうね!!!
いや、ほんとに好きなキャラなのでこういう独白が読めてとても楽しかったです。