何時もの昼下がり カルデアの食堂では今日も多くの職員と英霊達が食事を楽しんでいた。
「…ほう これは珍しい者がいたもんだな」
トレーに乗せられたラーメンを持っている赤い外套を着た少女はある人物を見つける。
白髪交じりのぼさぼさ頭で焼き鮭定食を一人で頬張る白衣を着た中年の男。

「やぁ、ナイスミドル 隣の席よろしいかな?」
話しかけられた男は箸を止め少女を不機嫌そうな顔で見る
「……他に開いている所があるだろう。そこに座ればいいのではないか?」
「いやいや、私はここに座りたいと思ったんだ。それ以外の所はノーサンキューだね」
「…勝手にしろ」
「では勝手にさせてもらう」
そういって男と向かい合うようにして少女は席に座る。

「珍しいね 普段から自分の研究室から一歩も外に出ない噂の君がここにいるなんて」
「普段は部屋で済ませるが……偶々和食が恋しくなっただけだ」
「それに一歩も研究室からでないなんて嘘だ、私は何度も部屋を出る 単純に人が多い場所に来ないだけさ」
「律義だな、サーヴァントは基本的に食事を必要としないというのに」
「私は食事をしないと頭が回らん そう言うタイプだ」
同感だ、と彼に微笑みかける少女 呆れながら白飯を黙々と食べ続ける男性
その席はどことなく異質な雰囲気を醸し出していた

「君に聞きたい、君は人理焼却についてどう思っている?」
「何故私にそれを聞く?」
「おっと質問を質問で返すのは……まあそれはいいか。単純に興味があるからさ」
「こんな偏屈な老人に興味を持つとはお嬢さんも変わっているな」
「客観的に見て今の君は40〜50代の中年の男性に見えるけどね。それに私は多分君の何千倍も生きているよ。」
知っているさ、と彼は呆れながら彼女の方を見つめる
「はっきり言って人理焼却から人々を救う気はない。彼らには悪いが今までのツケが来ただけの話だ。」
「面白い事を言うね!人を救う側に居ながら人を救う気が無いとは!」
「それは私が聞きたいところだな。どちらかと言えば私は焼却したい方だ。」
鋭い目つきで彼女を睨みつける男。しかし彼女は怯むどころか微笑んだ顔でこう語る
「―――君は人類のことが嫌いなのか?」
「あぁ、大嫌いだ。その彼らが生み出した『抑止力』もそれにより生み出された『仮初の平和』もな」
「だから私は人類に絶望し、元の世界で人理焼却を実行し、それを果たした」
「こうして私は英霊の座に―――――」

「イイや、嘘だね。君は人理焼却は実行せれど それを果たしてはいない。」
「それに君は人類にそこまで絶望していないんじゃないかな?」
ハッキリとした口調で彼にこう語り返す
「―――何故分かる?」
「愚問だね、私は最も偉大で高貴な至高の存在だよ。君の顔や口調、それに風貌を見れば大体察するさ」
「だが君はさしずめ最も邪悪で野蛮な大罪人ってことかな?私とは正反対だ。」
「勝手な事を言ってくれるな。不死の者よ まあ間違っては無いだろうが それで何故私が達成してないということが分かるのだ?」
「君は人類と抑止力を忌み嫌い絶望していると言っていたよね?でもそれは本当にそうなのだろうか?」
「もしかして君は微かに人類に期待していたんじゃないのか?抑止力を使わずに君の人理焼却を止める者が現れることを。」
彼女の自論に彼はピクリと眉間の皺を寄せる
「君の過去に何があったのかは知る由もないさ、だが君は抑止力を産みそれを崇める人類に絶望した。」
「君は抑止力を無力化するために何らかの研究を続けてきた その過程で君は何かを見つけたんだろう 人類を滅ぼすに価する物を」
「………………………………………………………」彼は何も答えない
「でも君は人類すべてに絶望してはいなかった。この世界の今を決めるのは今を生きている者達だと知っていたから」
「だから君は試したんだ。人理焼却を実行し、少ないヒントを与え今を生きている人類に選択肢を迫った」
そう言うと彼女は立ち上がり両手を大きく上げ大声で叫んだ
「『さぁ!私は人理焼却を実行した。だがそれと同時に君たちにはチャンスを与えよう!私は数少ない手掛かりを残す!』」
「『君たちは人理焼却を止めるために【抑止力】を使うか?それとも【抑止力】を使わずにこの炎を止めるか!?』」
突然のことに食堂はざわめき出す 男は少女の自説を黙って聞いている。

「『―――――――私は好きにした 君らも好きにしろ』ってね。」

そういってゆっくりと椅子に腰かける
「大した自説だな。だが何故私が人類に微かに希望していると考えたんだ?」
「君の表情だよ。普通目的を失敗した者は悔しがり恨む顔を見せる。そして次はこうせねばああせねばと死んでも囚われる物さ」
「だが君の表情はいつも穏やかだ。まるで目的が失敗したことを安堵しているかのようにな。」
「まるで自分のやったことに悔いは決してないかのように。」
それを聞くと男は残っていた味噌汁を一気に飲み込んだ
「ご馳走様…味は悪くないが妻の作る物に比べたら到底及ばないな」
そう言って彼はトレーを持ち席を離れる

「ただ一つだけ分からないことがある。君は――――一体『何を』用いて人理焼却を実行したんだ?」

赤い外套の少女から離れようとした彼はそれを聞き足を止める
「なるほど…君は私に興味を持ったのではなく『アイツ』に興味があるということか」
「いや君にも興味を持って居るのは当然だし、そして君のいう『アイツ』にも興味があるかな」
「これは私の勝手な推論だが、人理焼却を行うには膨大な力が必要だ。ましてや君は1人でそれを実行に移すことが出来た」
「私は君が怪物…いや『神』を作ったんだと考えている。それも大地を蹂躙せし破壊の神をね」

男はため息をつき彼女の方を振り向いた
「私が何を使って人類を滅ぼそうとしたのか 私の口で言うつもりは毛頭も無い」
「知りたいのであれば君の好きにしろ。私はそれを止めるつもりはない」
「『私が好きにしたように』 そう言いたいのかい?」

「やはり私達は似てるよ 君も私も自分が好きなようにしたからね」

「――――――フン。君が何を好きにしたかは興味は無い。だが君は人類を救うために好きにしたのだろう」
「ほう、何故そう言うことが分かるんだ?」
「君ほどでもないがこれでも長く生きた方だ。年の功ってやつだろう」

そう言って男は足早と彼女の入る席から去る

「あぁ、それと最後に一つ爆弾君をあまり嫌わないでくれ。彼も彼なりに色んなことで悩んでいるんだ」
その言葉が聞こえたのかどうかは分からず彼は返却口にトレーを返し食堂を後にした。

「さてと…あっ、やっちゃったなぁ」

彼女はトレーに乗っているラーメンを見て参ったという顔で頭を掻く

「あ〜あ…ラーメン伸びちゃったよ……」

このページへのコメント

感想ありがとうございます!
楽しんでいただいて幸いです

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Posted by 魔兵・反核(中立・悪) 2016年08月15日(月) 00:35:11 返信

不死を書いてくださりありがとうございます。
読んでいて楽しいssでした。また不死を使っていただけると幸いです。

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Posted by 魔兵・不死♀(中立・中庸) 2016年08月15日(月) 00:22:48 返信

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