時は、黒のアーチャーと赤のバーサーカーが消滅した時間より少し遡る。
そこは城、黒の陣営によって造られた鋼鉄の城だ。

「それで、本当によろしいんですか?ルーラー。彼らを招き入れて。」

その城の主である黒のキャスターは隣に立つルーラーへと言葉をかける。

「ええ、どうせ表の戦闘は偽装。誰が来るかまではわからないけど、十中八九来る。」

「それならば、迎え入れて一網打尽、というわけですか。いやはや、恐ろしい。ライダーあたりが聞けば怒りそうな話です。」

そう、表の戦闘はブラフだ。
今戦っている彼らには悪いが、今とっている戦術こそが、戦争の早期集結につながる。
少なくとも、ルーラーである彼女はそう信じているのだ。

「あとからどんな謗りも受けるし、なんなら殺されても構わない。それでも・・・。」

勿論、歴戦の英雄達だ。彼女の思惑に気がついていないはずがない。されどその身を危険に晒すのは、何より彼女の善性を、想いを知っているから。

そして、黒のキャスターもまた、同じ考えを持つものだ。

「我々としても、欠落した記憶(・・)をすぐにでも取り戻したい。なんというか収まりが悪いですからね。」

そのために、この戦争に勝利し、聖杯を手に入れる。
我々黒の陣営は、それが最終目標だ。

その時、城の中から巨大な爆発音がする。

「と、どうやらお客様がいらしたようです。」

「なら、彼らが消えるか、ここにたどり着くかを待ちましょう。」

そう言って彼女は目の前のモニターに目を向ける。そこに映るのは一組の男女。



「しゃらくせぇ!!」

槍を持った少女が叫ぶ。
無限に湧いてくる鉄の兵士を相手に己の骨から作った槍を操り、次々に打倒していく。

「いやぁ、私は楽できていいね頑張りたまえ。」

そして、その後ろを歩くのは戦場には不釣り合いなスーツ姿の男。
ここが戦場であることを気にもかけないかのように、自然に歩いている。

「てめぇも働けよ!俺はお前のお守りのために来たんじゃねぇぞ!てか自分の身は自分で守るとか言ってたじゃねぇか!」

「おや、守っているじゃないか。私は君たちみたいに強くないからね、飛んでくる破片を躱すだけで精一杯だよ。」

「よく言うぜこいつ・・・!!」

2人はあくまで会話をやめることなく、ひたすら奥に進む。
周りを鉄の兵士に囲まれながらも少しも慌てていない。なんてことないかのように、淡々と打倒し、歩を進める。

「しかし、こうも数が多いと面倒だね。そうだ、こうしようか。」

男が何かを閃いたらしい。
そして、その事実に対し少女、赤のランサーは顔を歪める。

「また碌でもない思いつきか?」

「碌でもないとは失礼な、悲しいぞ。」

「いいからさっさと思いつきを言え、相手、包囲を縮めて来てるぞ。」

彼女が指摘するとおり、二人を囲む包囲が徐々に小さくなる。
このまま囲まれては、いくら力量差があったとしても戦いにくい。
なにか秘策があるというのであればさっさとーー。

「ああ、それでは少しかがんでいたまえ。」

ザシュッ

彼がそういうのと、謎の攻撃が周囲の敵を破壊し尽くすのはほぼ同時であった。
ランサークラスの自分ですら見逃してしまうほどの速さの攻撃、それが周囲の敵を攻撃した。
何より驚いたのはそのような攻撃手段を目の前の男が持っていること。

「お前、今何を?」

疑問が口からこぼれる。しかし、この男はこういう時にきまってこう言うのだ。

「『企業秘密』だよ」


何故かはわからないが彼のその言葉を聞くと思考に靄がかかる。だが、何かされている自覚はあるのに、それを責めることが出来ない。

「さて、そろそろ終着点だ。ここからが本番だよ。」

彼の指が指し示す先、そこが彼らにとって目的の場所。
ルーラーが、そして黒のキャスターがいる玉座の間だ。

「戦争の時間だ。」

そう呟く彼の顔を見ることが出来ない。
あれ、そういえば、めのまえのおとこのなまえはなんだったのだろうか。

「行こうか、ランサー。」

促されるまま共に進む。
そうだ、私の私たちの目的は・・・。

「そう、何も考えずに、身を委ねろ。」

「蛇狩りの時間だ。」



「ようこそ、我が城へ。歓迎しますよ、赤の陣営。」

黒のキャスター、この城の主はそう言って侵入者を迎え入れる。

「まさか、あれだけの数の兵士を一瞬で始末してしまうとは。一体何をしたんです?」

そう自然に尋ねる。
まるでかつての友に話しかけるかのように、敵同士ではないかのように。

「なに、ちょっとしたマジックだよ。タネ明かしはしたくないね。」

侵入者側の男もまた、それに自然に答える。
こちらにも敵に対する感情は一切感じられない。

「旧交を温めるのはそこまでにしてもらおうかしら。貴方達の記憶がどこまであるのかは知らないけど・・・。」

ルーラーがその話を遮る。
そう、今の彼らは敵同士なのだ。互いにかつて友であった記憶があろうとも、陣営が違うのであれば争うしかない。
そして、この2人もそれを理解していないほど愚かではない。

「さて、それじゃあ改めてようこそ。黒の陣営へ。歓迎するわ、2人とも。」

そう、目の前の男と赤のランサーに声をかける。先程敵同士であると言ったばかりなのに、その言葉に敵意はない。
ルーラーはそういう存在であるからだ。戦争の規律を作り、守り、違反者がいれば罰する。
それがルーラー。

「ルーラーたる貴女が、そちらについていることに関しては言いたいことは無い。こちらにも似たような事情がある。」

だが、今ルーラーは黒の陣営であることをはっきりと表明した。つまり、

「ええ、分かってもらえて嬉しいわ。ならこの後に続く言葉もわかるわよね?」

そうもったいぶった言い方をする。
そして、その後に続く言葉を理解している。
これはそういうことだ。

「赤の陣営、貴方達をルーラーの名の元に罰します。理由は、言わなくてもわかるわよね?」

そう告げる。それは、聖杯戦争の開催者側からのはっきりとした通告。

「・・・・・・・・・やれやれ、まあ、分かっていたことだ。だが、こちらも素直にハイそうですかごめんなさいと引き下がるわけには行かない。」

その通告に対して、大きくため息を吐いたものの男に気にした様子はない。むしろ、今の一言で明確に反逆の意思を見せた。

「そう・・・・・・。分かってもらえないのね?」

ルーラーは悲しそうに告げる。この展開になる事は覚悟していたし、その確率が一番高いことも理解していた。

「何を分かり合う?私達と君たちは明確に敵同士だ、決して相容れない。そんなに甘いことでルーラーが務まるのかい?」

そう厳しく言い放つ。が、戦場において彼の言葉は正しい。どんなに言葉を重ねようとも、相容れない者同士は戦わなければならない。

「君たちは記憶を求めた。我々は世界の再生を求めた。これだけ大きな隔たりがある我々が、理解し合うことなど不可能だ。」

「っ!でも、記憶を取り戻せば、この世界を救う方法だって!」

「どこにそんな保証がある。」

半ば言い合いの形になったところで、男がそう言い捨てる。
その顔は、彼を知るものなら想像ができないであろうほど、怒気に染まっている。

「その無責任な考え方が、大切なもの達を、居場所を奪った。それすら忘れて耄碌したか、ルーラー。」

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

その言葉に対して、ルーラーは何も返せない。伝えたい言葉は沢山あるのに、それでも、何も話すことが出来ない。

「そして、おかげで私は、君を始末することが出来た。」

「・・・・・・・・・は?」

「・・・・・・・・・!待て、貴様何を!?」

黒のキャスターが言葉をかけるが間に合わない。この場において、最速のランサーの攻撃は何者にも防ぐ事は出来ない。

「■■■■ーーー!!!」

「ぐうっ!!」

「くっ!こいつ、狂化してやがる!」

そして、狂化したランサーの目標は一つ、目の前の蛇(竜)を殺すこと。
部屋から弾き飛ばされたルーラーを追いかけて彼女も部屋から飛び出る。

「君の相手は私だ、とはいっても時間稼ぎだけどね。」

そして、黒のキャスターの前にもまた、男が立ちふさがる。

「テメェが俺様を抑えられると?かつて、一度も俺に勝利することがなかったテメェが!」

黒のキャスターの語調も荒くなる。
ルーラーを殺す、その暴挙はそれほどまでに深刻な意味を持つ。
ルーラーは聖杯戦争のいわばジャッジマンだ。それを殺すという事は、

「戦争が狂うぞ!」

「無論、理解しているし、それが目的だ。」

そう事も無げにいう。
それが彼らがこの城に乗り込んだ目的、そして、彼らの達するべき目標の第一歩。

「さて、なぜ私が彼女をここに連れてきたのか分かるかな?」

そう、何気なく会話を始める。
鉄王が放つ攻撃を紙一重で回避しながら。

「彼女の真名はテイレシアス、かつての蛇竜を殺し、その呪いを受けた少女だ。そして、ルーラーである彼女の正体もまた、蛇だろう?」

その動きは、まるでそこに攻撃が来ることがわかっているかのようで。

「そして、彼女にはとある礼装を渡した。ルーラーに対して、確実にダメージを与える呪い、復讐者としての性質を与えてある。」

その言葉とともに、黒のキャスターの攻勢も止む。されど、

「つまり、用意周到にルーラー、彼女を殺す準備をしてきたわけですか。貴方もしかして、完全に記憶(・・)がありますね?」

「ああ、私はすべてを覚えている。かつての世界を、なにがあったのかを。だからこそ、今こうしてここにいる。」

そして、彼は黒のキャスターに向き合いこう告げた。

「どうだ、私たちとともに来ないか?私は君をかっている。我々とともに、かつてのように世界を救おう。」



「ん・・・?あれ、私は何を。」

長い夢を見ていた気がする。その夢は、暖かくも悲しくて。

「おお、目を覚ましたか。」
「おはようございます!ゆっくり休めましたか?」

「え?」

そう、声をかけられた方を向くと中華服を着こなした偉丈夫。そして日本人?だろうか自分よりも幼い少女。

「しかし、ちょうど良いタイミングだった、そろそろ我らの城につく頃合よ。」

「今は戦闘の最中ですから、こっそり裏手から城に入りましょう!城の中なら安全です!」

「え?え?え?」

2人にまくし立てられ頭が混乱する。
えと、確か昨日の夜宿屋で、変な女の人に襲われて、それで・・・・・・・・・。あっ!

「!!!カメラ!?カメラはどこに!」

「ここにありますよ!」

少女の手の中には、自分が命の次に大事にしているカメラがあった。安心するとともに少し冷静になった自分がいた。

「それで、お二人は何者なんですか?」

その言葉とともに2人が膝をつく。
まるで姫に傅く騎士のように。

「挨拶が遅れて申し訳ない、俺は黒のランサー。貴女を護衛するために派遣された。」

「同じく黒のセイバーです!私も貴女の搜索と護衛を任されました!」

「「ようこそ、黒の陣営へ、復讐者様。」」

「え?」

「「え?」」

「なにそれ怖い」



next 『復讐者』

このページへのコメント

一気に動き出したぞ・・・マジで先が読めない。
蛇さんに対しての徹底した殺し技と言うかハメ戦術に勧誘に復讐者の謎に・・・そして記憶の欠損もう次がドッキドキのワックワクだ〜よ。

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Posted by 槍兵・中華 2016年09月03日(土) 08:18:53 返信

ヒャッハアアアア狂化だァァあああああ
……ギリシャ真実でも知ってしまったのだろうか。

とりあえず早々にルーラー同士がぶつかり合っててかなり
怒涛の展開ですが、続きを楽しみにしております!

0
Posted by 槍兵・蛇殺 2016年09月01日(木) 23:07:03 返信

なんかクライマックスって感じがしますね!ルーラーさんは大丈夫なんでしょうか!それと記憶も気になりますし!
作成お疲れさまです!毎回楽しく読んでます!

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Posted by 剣兵・妖姫 2016年09月01日(木) 22:58:21 返信

作成お疲れ様でした!
……ところで復讐って何でしょうかね?いったいこの女の人は何を宿しているんでしょうか?

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Posted by 復讐・写真 2016年09月01日(木) 18:36:28 返信

ガチガチにメタ張ったものですね、流石頭脳労働系鯖。
・・・其れに付けても過去の繊細が気になるなあ。
面白く読ませていただきました。

0
Posted by 剣兵・屍鬼 2016年09月01日(木) 18:05:13 返信

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