とある教会にある、巨大な円卓。
その最奥に座る一人の男は、円卓の中央に存在する十字架に向けて目を瞑り、祈りを捧げていた。
やがて目を開き立ち上がると、虚空に向けて話しかける。

「ふむ、どうやらアーチャーが向こうのランサーと戦闘に入ったらしいね。」

スーツ姿のその男は、まるでそこに相手がいるかのように話を進める。

「なに?心配しているのかい?ふふ、君は実に優しいね。だが大丈夫だよ。万が一にでも敗北だけはない。」

歩を進めながら部屋から出る。
部屋から出た先は大きな吹き抜けになっていて月光が差し込んでいた。

「それでは、我々も準備をしようか。セイバーは直接目的地へ向かわせよう。」

月光に照らされる彼の姿は、何も知らぬものが見れば神秘的に感じるであろう。
それほどまでに、彼の存在は薄く、儚さを感じさせる。

「ライダー、ランサー、バーサーカーには出陣の触れを。君とキャスターはアレの完成を急いでくれ。なに?私?」

男は深く息を吸いこむとこう告げる。

「無論、私も直接出る。我々の初陣だ。派手に行こうじゃないか。」

そう言ったその表情は、どこまでも『無』であった。普段の彼を知るものからすれば、考えられないほどの。




甲高い音が響く、1本の槍が、弓を弾き続けている音だ。

「ぐうっ!こなくそぉ!!」

男、黒のランサーの表情は苦悶だ。
身体中の至るところに傷が付き、血が流れている。

「あっはっはっ!さっきのエラソーなセリフは何だったのかにゃー?」

逆に女、赤のアーチャーには傷一つない。
いや、正確には外套が破れているがそれだけだ。

本来であれば、彼らにそこまで大きな戦力差はない。
仮にどちらかに身体的な異常があったとしても、ここまで一方的になることは無かっただろう。
ここまで互いに差がついた要因は・・・・・・。

「後ろにいる彼女を狙っておきながら!よくもぬけぬけと!!」

そう、後ろで気絶している少女だ。
彼女の存在が、黒のランサーを追い詰め、赤のアーチャーを勢いづかせている。
黒のランサーの目的は彼女の保護、赤のアーチャーの目的は捕縛もしくは殺害。
この条件の違いが、二人の明暗を分けている。

「んー?勝つためには手段は選ばない。それが私達英雄でしょ。」

こともなげに彼女は言う。
それに対し、黒のランサーは言いようのない違和感を感じる。
確かにかつての赤のアーチャーは享楽的なところがあったが、それにしても明らかにおかしい。
可能性がないわけでもないが、まさか・・・・・・!

「赤のアーチャー!貴様、狂化を・・・!」

「んー?あ、気づいた?いやぁすごいよね。まさか理性があるまま、狂わされるなんて思わなかったよ。」

狂化、バーサーカーを呼び出す際に行われる一種の強化。
しかし理性がある狂化とは・・・!

「ま、詳しいことはキャスターとあいつに聞いてよ。私だってよくわかんないし。あ、聞けないか。」

彼女はそういうと、両手を顔の前で握り合わせ、目を瞑る。

「だってここで、その娘諸共死ぬんだから。」

ゾクッ
黒のランサーの背筋に悪寒が走る。
この反応は、宝具か・・・!!
こんな村の中で、それを使うのか・・・!!
そこまで堕ちたか、同朋よ!!

「主よ、我らの愚行に対する神罰を我らの命で贖い下さい。」

――――――終局に至る祈り(ブィリーナ・マリートヴァ)

それは、神への贖罪。
己の罪と向き合い、己を石化することにより相手を死に至らしめる呪い。

「ぐ、ぐぉおおおおおおおおおお・・・!!!」

魔力が満ちる、その魔力だけで傷ついた肉体に罅がはいる。
ここで倒れるわけには行かない・・・!
後ろの彼女を守るため、それもある。
目の前の敵が許せぬから、それもある。
だが、何より・・・!!

「このままでは、俺自身が納得出来るかァ!」

その宝具は、彼の逸話にして彼の誇り。
かつて、彼の最も尊敬する男とともに駆け抜けた証明・・・!

「我が疾走は忠義の証、何人たりとも追い付くことはできん!!!」

ーーーーーー千里疾走・赤兎之如く(はしり、せきとにひとしく)!!

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

相手の宝具は神への祈りを捧げるまでの間がある!
ならばその前に・・・!

「喰らえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

我が槍で貴様を貫く!!!!

ザシュッ

「ーーーーーーーーあはっ」

やった。
我が槍は確かに彼女に届いたのだ。
では、ではなぜ。
ーーーー彼女は、五体満足でそこにいる・・・・・・!?

「んっふー、これなーんだ。」

そう彼女が掲げる手には・・・・・・・・・。

「な、なぜ、なぜ貴様が令呪を持っているのだ・・・!!」

令呪、マスターが持つサーヴァントへの絶対命令権。
本来、サーヴァントが持つことはありえない。
彼女はそれを用いて、こちらの攻撃を躱しきったのだろう。

「まぁ、一回コッキリで、今回使っちゃったんだけどねー。宝具もキャンセルしなきゃだったし。まぁでも」

ーーーーこれで私の勝ちだね?

「!?しまった!」

今の一瞬の問答、しかし一瞬があれば英雄にとっては何の問題もない。
赤のアーチャーの放った弓は、後ろで気絶する彼女へ・・・・・・!

「ガッくーん!!ガーーーード!!」

届く前に防がれた。
そこに佇むのは年幼い少女。
刀を構え、赤のアーチャーをきつく睨んでいる。

「大丈夫ですか!ランサーさん!!」

彼女は黒のランサーにそう声をかけると、正面を見据え大きく宣言する。

「黒のセイバー!参っ上です!!」

見た目は幼い少女だが、その身にまとった気配は確かに英雄。
この場にいた、二人の英雄にも劣らぬほどの力を秘めている。

「あっちゃー、増援来ちゃったか。んー、令呪も使っちゃったし、どうしようかなぁ。」

赤のアーチャーは2対1という状況に対して、あくまでも冷静に思考する。
正直自分の宝具を使えば相手が何人いようと関係ない。
だが、そう何度も使うチャンスをくれないだろう。

「セイバー、礼は後で。とりあえず、この状況をどうするか。」

「そうですね、私たち2人なら負けないとは思いますけど。後ろの方が。」

黒のランサー、そしてセイバーも人数比に奢ることは無い。
さきほど見せた宝具、そして狂化されたステータスは油断してはいけない。
なにより、彼女を救出するのが、こちらの勝利条件なのだから。

互いに睨み合いになる。
不用意な行動は敗北につながることを理解しているから。

「やーめた。」

そう言って先に踵を返したのは赤のアーチャーであった。

「・・・・・・、何のつもりだ。赤のアーチャー。」

黒のランサーはそう、訝しげに尋ねる。
ここで退く、正しい判断ではあるが・・・・・・。

「んー?いや、冷静に考えたらこんな所で消えたくないし。それに、向こうも動き出したし?」

そういうと彼女はこの国の首都の方向を見る。
それと同時に、黒のセイバーの元へ使い魔が飛んでくる。

「ーーー!ランサーさん!ルーラーさんから連絡が来てます。赤の軍勢が侵攻を開始したと!」

「・・・、そうか。では我々も彼女を連れて退くとしよう。」

黒のランサーは馬を召喚し、そこに気絶している少女を乗せると、赤のアーチャーへと声をかける。

「次こそは、正々堂々と貴様を討ち果たす。」

それに対して赤のアーチャーも

「ふーん。期待してるよ、黒のランサー。」

そういうと村の外にある森の中へ消えていった。

「では、我々もすぐに城に戻ろう。」

「はい!」

黒の陣営の二人もまた、自分たちの居城へと踵を返す。

こうして、聖杯大戦の初戦は集結する。
1人の少女を巡る争いは、互いの痛み分けに終わった。
そしてーーーーー。



「いやぁ壮観だ。これだけの軍勢を用意してくるとは、奴らも本気ということか。」

一人の男が城壁の上から戦場に布陣する敵軍を見下ろす。
その笑みは獰猛、優しい言葉遣いとは裏腹にどこまでも攻撃的だ。

「赤の軍勢どもに見せてやるよ、俺様のファンサービスをな!」



「さて、どう動こうか。」

赤の陣営側では、本陣で壮年の男性が布陣図を見ながら思案する。
その目は冷徹、どこまでも他人事のように、しかし熱を込め思考する。

「我々の征服の時間だ。この野蛮な城を略奪しようか。」



聖杯大戦の第二幕、英雄同士の本格的な闘争劇。
ついに始まる。

next.「激突、両陣営。」

このページへのコメント

執筆お疲れ様です!
初戦は赤陣営優勢で終えましたか。
前哨戦が終わり次は本格的に聖杯大戦の始まりでしょうか。
自分が活躍できるようダイスの女神に祈りつつ、応援させていただきます!

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Posted by 騎兵・偽神 2016年08月18日(木) 23:35:40 返信

作成お疲れ様でしたー!!
あやうく中華さんが死んだ!するところでしたね…
アポ的にいつ自害するのかわかりませんけどその時までは頑張りますよー!
次の話も楽しみにしてます、お疲れ様でした!!

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Posted by 剣兵・妖姫 2016年08月18日(木) 20:12:39 返信

次の展開が気になる!
いいね!

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Posted by 調停・蛇 2016年08月18日(木) 18:02:56 返信

おお,戦闘描写かっこいいですね
次から本格的な戦争開始にわくわくします

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Posted by 狂兵・爆弾 2016年08月18日(木) 17:07:52 返信

セ、セリフ欄にあったから使わせてもらっただけだから(震え声)

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Posted by 調停・交渉♂ 2016年08月18日(木) 15:33:28 返信

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