此処は座にある大食堂。
過去、現在、未来の英霊を内包する座において多くの者が気まぐれに訪れ、その時々に出会う同胞と食事を楽しむ憩いの場。
西暦二千年代のフードコートに近い内装、英霊たちが寛げるように小洒落たテーブルと椅子がセットで余裕を持って配置されている。
今日も英霊たちが集まり、各々の好きな食事を頼み、同胞と会話を楽しんでいるようだ。

食事処と言っても自分で料理を作り、楽しむ者や単に女性を見に来た者まで様々な英霊がいる。楽しみ方は人それぞれだ。
中には修行と表し、目の前にあるカツカレーを我慢しながら、ラーメンを食べるという変わった輩のいるが、この混沌とした座において些細なことだろう。

この広い大食堂の一角でひたすら空となった皿を積み上げている一人の英霊がいる。
凄まじい勢いで料理を平らげていく彼女は調停・蛇♀、皆からは蛇さんなどと呼ばれている人物である。
食べることが大好きな彼女はこの大食堂のことを教えられて以降、毎日のように通い、自分が満足するまで食事を行うということを繰り返している。

「一日一万回―――感謝のお茶汲み!!」

何処かで聞いたようなフレーズと共に猛烈な勢いで箸を進める彼女の近くで目にも留まらぬ速さでお茶汲みをする英霊が通り掛かった。
茶葉をゴミ山に変える能力などと突っ込みがなされた彼女を流し目で見ながら、蛇は食事を続けている。
蛇と違い、人間の文化は複雑であると理解している蛇はそれを疑問に思いつつも、大好きな食事を優先したのである。

「一日一万回―――感謝の麻婆」

今度は麻婆豆腐を見事な職人技を持って作る英霊が現れる。
ぐつぐつと煮えたぎる溢れんばかり麻婆豆腐は一瞬、手が止まるほどの魅力に溢れる料理だったが、他人のものに手を出すことはいけないことだと理解している蛇は気にはなりつつも食事を再開する。

「一日一万回―――感謝の愉悦」

視界の片隅でワインを飲みながら愉悦に浸る英霊がいる。
座に与えられた知識から彼の英雄王が所属する愉悦部というものが存在することを思い出し、少しだけ体を震わせたが此処に英雄王が来る可能性は皆無と理解している蛇は少し睨みつけたあと、再び食事を始めることにした。

「一日一万回―――感謝の盗撮」

英霊に有るまじき言葉が聞こえる。弾丸のような速度で移動しながら、カメラのシャッターを押す英霊が通り過ぎる。
その後ろを盗撮されたであろう女性の英霊が追いかけているが、逃げ足だけは早いためか追いつける様子がない。
わりと何時もの光景なので、気にせず蛇は食事を続ける。

「一日一万回―――感謝の爆発」

大食堂を揺るがすほどの強力な爆発が何度も起こる。阿鼻叫喚の地獄絵図。
他の英霊が宝具で防いでいるため大惨事にはならないが、それでも大食堂は大混乱だ。
己の所に被害が来ていないので蛇は構わず食事を続けている。

「一日一万回―――感謝の脱衣」

もはや、そう言う流れでもあるのだろうか。もう聞き慣れたフレーズと共に脱衣を繰り返す英霊が現れる。
ビデオカメラに向けられている英霊はどのような絡繰りか知らないが、一切の裸を見せることなく脱ぐ度に服が変わっている。
高速で着替える逸話を持つ英霊もいるのだなと、驚きながらも箸は止めない蛇である。

「一日一万回―――感謝の食事」

何となく蛇もこの流れに乗り、空いた皿を横に積み上げながら、聞き慣れたフレーズを発してみた。
何時も獲物、ないし食物には感謝しているので間違ってはないだろう。
大分、注文した料理も片付いてきた所で蛇は追加の注文をしようとメニューを読み始める。

「ならば喰らって見せろ、愉悦麻婆を!!」

テーブルの向こうから地獄の釜の如く煮えたぎる麻婆豆腐の鍋を運びながら、歩み寄る英霊が現れた。
先程から見事な職人技で麻婆豆腐を作っていた人物である。

ちょうどスペースが空いた目の前のテーブルに盛りつけられた麻婆豆腐が置かれる。
得も言われぬ香辛料の香りが蛇の鼻孔に突き刺さる。
用意されたレンゲを手に取り、鮮烈なまでの赤さに彩られた麻婆豆腐を口に運ぶ。

豆腐を口に含んだ瞬間、舌を焼く刺激がたまらない味覚を齎す。
唐辛子のような痛みを感じる辛さの辣味、痺れるような辛さであるを持つ花椒が絶妙な加減で入れられている。
麻婆のウマ辛さが全身に染み渡るのを感じる。口にする度、脳を焼くような辛さこそ、価値ある刺激。
だが、蛇の腹はまだ満たされない。刺激がまるで足りていない。

「おかわりちょうだい!」

思いもしない美味しい料理の出会いに思わず、蛇は普段の女性的な口調を忘れて、子供っぽくおかわりを要求する。
その食べっぷりを見て、おかわりされることが分かっていたのか追加の愉悦麻婆を作りながら、新しいお皿を運んでくる。
どんどん食べる蛇と楽しそうに愉悦麻婆を作る英霊との時間は瞬く間に過ぎ去っていった。
最終的に蛇が満足して少し残してしまうことになってしまったが、槍兵・中華と呼ばれる英霊は満足気な表情をしていたと言う。

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