ーーその日は、何の変哲もない普通の1日だった。
座のどこかに存在するラーメン屋。
そこは常に英霊達で溢れ帰っている。
模擬戦が行われたり、堂々といちゃつく英霊がいたり、それを見て酒に興じる英霊もいる。
爆発が起こったり、超兵器が作られれたりも日常茶飯事だ。

しかしその日は、様相が違った。

ーーー

いつも賑やかなラーメン屋の中から、怒号が聞こえる。喧騒が聞こえる。
それは、いつものように穏やかなものではなく、どこまでも重く、苦しい。
その中心にいたのは、兄貴分として皆から慕われている男、騎兵・狂犬。
そして向かい合うように対峙するのは狂兵・偽者、ライと呼ばれる少年だ。
周囲では、熱くなる前に止めようとする者、あくまで傍観に徹する者、最悪の事態を想定して動く者、皆一様に準備をしている。

少年、ライは言いようの知れない怒りに苛まれていた。
ライは、元々とあるサーヴァントの人格の一つでしかない。
つい最近仮初の肉体を手に入れ、そして努力してきた。
ほかの英雄達に認められるために、共に戦うために、とある約束を果たすために。
目の前の男に認められて、名前で呼んでもらうために。
しかし

「何勝手に人の名前呼んでんだよ・・・!!!」

その想いは裏切られた、ほかならぬ兄貴と慕う目の前の男によって。
そして、それが、どうしようもなく辛く、何より悲しかった。

「は・・・?何言ってんだ、お前が呼べって言ったんだろうが。」

それに対して狂犬側の反応は困惑だった。
狂犬はとあるサーヴァントに襲撃され、1度消滅した。
再召喚され、皆に心配された。元来の面倒見の良さから律儀に返事を返すが、その返事に問題があった。
何気なく返しているはずの返事と相手が、噛み合わない。
ぐちゃぐちゃする。何者かによってまるで狂わされた(・・・・・)かのように。
目の前の少年との会話もそうだ。今までだって普通に名前を呼んでいたはず・・・・・・?
・・・・・・・・・あれ?なにかがちめいてきにずれている。
その事実にイライラする。自分を、自分とも思えないような、そんな気持ちが悪い違和感。

そして、互いに怒りをぶつけ合うだけの喧嘩が始まった。
そうなれば、もう、二人に引く事はできない。ただ、その想いを悲しみを怒りを、ぶつけ合うしかなかった。

偽者は想いを叫んだ。

狂犬は己の困惑を吼えた。

売り言葉に買い言葉、周囲の静止などものともせず、彼らは怒りを衝突させる。
いつしか言葉だけではなく、取っ組み合いにまで発展していく。

「もういい・・・!今のアンタは見たくない!だから死ね、もう1度召喚されてこい・・・!!」

涙をこらえ、少年は宝具を抜く。目の前の男と並ぶために、認めてもらうために鍛え上げてきた宝具を。

「上等だ!やれるもんならやってみやがれ!!」

狂犬もまた、武器を抜く。目の前の、自分を兄貴と慕ってくれるものを殺すために。

「そこまでだ。さて諸君、バカの鎮圧を頼むよ。」

いつの間にか二人の間にたっていた男がそう告げる。
その言葉とともに、二人の間に壁が精製される。
宝具を抜いた愚か者は皆からの攻撃によって気絶した。
そして狂犬は、周りの静止を振り切りラーメン屋からその姿を消した。

「さて、とりあえずここまでにしておこうか。」

先程二人の間にたっていた青年が言葉を発する。

「今回は完全に冷静さを失ったこのバカの落ち度だ。」
「周囲に余計な傷まで与えてくれてほんとにこのバカは。」

やれやれと頭を振りながら、ため息を吐く。

「ここからが本題だ。今の騒動でわかったはずだ。今、ここで起こっている異常事態が。」

周囲を見回し熱くなりすぎているものを牽制するかのように告げる。

「という訳で頭を冷やせ。なに、今回の件に関しては我々のする事は簡単だよ。」

そう言うと男は周囲の視線を集めするべきことを述べる。

「あの、黒ずくめのサーヴァントを見つけ、打倒する。おそらくそれが、狂犬君が元に戻る一番の近道になる。」

こうして、カルデアにおけるひとつの喧騒が終わりを迎え、一つの闘争が幕を開ける。
とある男を中心にした、とある戦いの記録。
鎖に縛られた記憶を、紐解いていく物語。

続く。

このページへのコメント

作成乙ー、楽しみですわ

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Posted by 魔兵・淫王 2016年08月24日(水) 22:45:15 返信

執筆お疲れさまです、みんなで協力して敵を倒す愛と勇気の話ですね〜こういうの好きです。

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Posted by 槍兵・中華 2016年08月24日(水) 15:04:25 返信

作成お疲れ様でした!
あのシリアスな掛け合い、いったいどうなるか楽しみです!

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Posted by 復讐・写真 2016年08月24日(水) 12:06:18 返信

作成お疲れ様です。どういった物語が紡がれるのか……楽しみに待ってますね〜!

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Posted by 暗兵・盛衰 2016年08月24日(水) 11:43:33 返信

執筆お疲れ様です。
本編とは違う、座にいる英霊たちの物語。
この物語がどんな結末を迎えるか。
これからも楽しく読ませていただきます。 

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Posted by 復讐・少年 2016年08月24日(水) 08:01:19 返信

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