「とある白兎の悪戯物語(ケースファイル)3」


静かな部屋に声が響く。

「すみませんでしたあ!もうしません!」

少し話をしようと思う。なんてことはない、誰に向けた訳でもない話を。

「いや、本当に反省してます、以後大人しくしますよ……」

嘘だ。反省などこれっぽっちもしていない。欠片もしていない。
そもそも騙される方が悪いのであり、第三者に怒られる謂れは微塵もない。
だが逆を言えば見つかる方が悪いのであり、本人に叱られるのは仕方ないとも思っている。
でも反省はしない。絶対にしない。

「本当だって!ちゃんと反省してるよ!」

嘘だ。兎は今日も嘘をつく。そもそも兎は嘘をつく必要がないのに嘘をつく。
その気になれば嘘をつかず、ほとんどバレず騙すことなど容易だ。
なのに嘘をつくのは兎の誠意だ。太刀の悪いことをしない、バレる隙を作っておく。全て兎なりの誠意だ。

「はい、分かりました……」

兎にとって悪戯はコミュニケーションだ。隙を作り、相手が気づき、怒られるというコミュニケーション。
だから今日も嘘をつく。優しい優しい嘘をつく。

「え、いや、それはちょっと……いえ、何でもないです」

だから今日も猫を被る。いたいけな少女の猫を被ろうとするポンコツな少女の猫を被る。
悪戯に失敗ばかりするドジな少女の猫を被る。普通は失敗なんてするはずないのに。

「はい、では失礼します……」

部屋から出て一人、少し黄昏る。当然本気で反省などしていない。そもそも本気で悪戯してないのだから。
黄昏ているのは一人になったから。一人は嫌だ。だからあの小さな島から出ようとしたのだ。

「欺海和邇……っと」

「おっと、俺だけ呼び出してどうした?というかあんまり陸で呼ばないでくれって言ったよな?」

「ごめんごめん、忘れてたよ。ほら、君って存在感薄いじゃない?つい忘れてさ」

「嘘だな。存在が嘘だ。もう1度聞くぞ、どうした?」

「……少し話し相手が欲しかっただけだよ」

「……そうか、なら少し付き合ってやるよ」

「そう、ありがとね」

なんてことない1日、今日は兎は嘘をつかない。
敵と本当に親しい相手には嘘をつかない。それは兎の誠意である。


とある白兎の悪戯物語(ケースファイル)3 完

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