ーーーーとある男の話をしよう。
その男は、どこにでもいる英雄への憧れが強いだけの普通の青年だった。
普通に生活をして、普通に恋愛をして、普通に死ぬ。
それだけのために生きて、死ぬ。そんな普通の存在。
しかし、ある日彼の生活は一変する。
望んだはずの世界、しかし、そこで感じるのは劣等感、言い知れぬ苦しみ。
そして・・・・・・。



「ふぅ。」

ほっと、一息つく。
ここでの生活は楽しい。日々退屈しないし、毎日新たな刺激を得られる。
だけど、たまにどうしょうもないほど、こうして一人である時間が欲しい時がある。

第1特異点から帰還後、すぐに第2特異点攻略の準備が始まった。
『俺』たち調停者の仕事は、連れていくサーヴァント情報の精査。
英雄というのは割と弱点がしっかりと存在しているものだ。
アキレウスしかり、ジークフリートしかり。
そういった弱点に対する知識、サーヴァントたちに関する知識をマスターたちに伝えるのだ。

「それにしても、ユーゴはともかくもう一人の方はどうにかならないものか。」

ここ、カルデアにおけるマスターは現状2名存在する。
1人は我々を使役するユーゴ、そしてそのユーゴのマスターであるユーリだ。
彼女、スペックは高いくせになんというか性根が腐ってる。
『俺』の中の一番ヤバイ人格と同レベルか、それ以上かもしれない。
そんなか事をいうと「どのような分野に関しても私より上は存在しないよ!」とか騒ぎだすから思うだけだが。

「あー、だめだ思考がまとまらない。」

最近、よくこういうことがある。
ふとした時に、他者への感情が抑えられなくなったり、突然泣き出してしまうこともある。
何が原因なのかは、はっきりとしている。『俺』としての意識が、戻りつつあるのだろう。

今までは、この肉体の持ち主であり、『俺』に対して最も影響を与えているであろう人格が、外に出ていることが多かった。
あの人格は確かに有能ではあるのだが、なんというか言葉にできないやばさを秘めている。
ただ、第1特異点の途中、正確に言えばあのランサーとの戦闘あたりからだろうか、『俺』に人格を明け渡すことが増えた気がする。

「その結果、大した活躍も出来なかったわけなんだよなぁ・・・。」

あの時、神性がある攻撃しか通らない存在との戦い、『俺』は判断を求められそして、失敗した。
そう、あの危険な状態で失敗したのだ。
当然、中に引っ込んだ後、ほかの人格から説教と指導を沢山もらった。
その中のひとりがこう言った。

「浮かれすぎだ、戯け。」

ーーー、そうだ。結局浮かれていたんだ、『俺』は。
憧れの英雄達と轡を並べることに、共に戦場に立てることに、そして、失敗した。
人格たちは、『俺』を積極的に外へ出すようになった。

交渉事の失敗は、時に取り返しのつかない惨事を引き起こす。
我々に任されているのは、それだけの重みがあることなんだよ。
故に、君はもう少し彼らに触れるべきだ。触れて、彼らについて知るべきだ。
そのために今まで、我々の出番のない時は君を外に出していたんだけどね。
出来たのは、彼の粗悪品でしかなかった。
君は、もう少し自分に素直になるべきだ。
我々は、君を補佐するためにいる存在に過ぎないのだから。

それが、人格たちの結論であった。
『俺』が今まで演じてきた■■■■。それが所詮粗悪品であったと。

「突然外に出されて糞みたいに錯乱してしまった・・・!!」

その結果がここ最近のあれだ。
何英雄達に泣きついてるんだ。慰められてるんだ。馬鹿か?恥ずかしい。
ショタになるってなんだよ。あのクソガキ人格、好き放題言いやがって・・・!
それでもセメントな対応が多かったのが実に『俺』らしくて良かったのだけれど。
そして、結果自分の胸に去来したのはどこまでも惨めな「劣等感」だ。

「みんな、優しすぎるんだよ・・・。」

そんな『俺』に対して英雄達はそれぞれ思い思いの励ましをくれた。
あえて何も言わないもの。普段通り接してくるもの。甘やかしてくれるもの。
そして・・・。

「よくわかりませんけど、交渉さんは交渉さんで良いんじゃないですか?」
「自分が駄目だーってなっても自分を信じれないと駄目になるばっかりです!」

「失敗して辛くて泣きたくなって、自分を見失うこともあると思います。」
「良いんですそれで立ち止まっても。自分を見失わなかったらまた歩き出せるんですから!」

自分よりも、幼いであろう少女の言葉。
統合人格である『俺』達の中で、自分を見失うな、と。
・・・・・・、そうだ。そんな簡単なことすら分からなかったのか。
勝手にほかの皆に遠慮して、どこまでも凡庸な自分をより惨めにして。

「ありがとう。」

そう告げた時、彼女はクスリと笑った。
すごく恥ずかしかった。多分『俺』の顔も真っ赤だったのだろう。
あっちの彼女であったら、多分「キモッ」で言われて終わりだろうなと、なんとなく考えた。
そして、今に至る理由だ。

「キャラチェンジ、とか言われたらどうしよう。いや、まぁ基本的に今までと変えるつもりは無いけど。」

これから、もっと『俺』としての意識が戻ってくる。
だから、自分を偽ることをやめよう。彼の真似事はやめよう。
『俺』は『俺』として、ここで生きて、ここで世界を救おう。
・・・・・・・・・、まぁ、徐々にね?ほら、唐突に一人称変えるとかなんか恥ずかしいし。

そして、今日も『私/俺』は、彼らと共に世界を救うのだ。

「おはよう諸君!今日も実にいい戦争日和だ!」



とある男の話をしよう。
彼は他者に侵されることのない自己を得るに至った。
これから先、彼がどんな道を歩むのかは私にもわからない。
だが、私と違い、どこまでも無能で可哀想な奴だ。
これからも『私』を、よろしく頼むよ、諸君。



あとがき。
なんとなく、最近ブレブレのキャラへの言い訳というか返答。
後は「交渉人」が「佐山」ではないことへの説明、みたいになってるといいな。
色々とめんどくさいキャラで、お手数おかけしてますがこれからも仲良くしてやってください。
最後に、台詞をお借りした妖姫さんとめんどくさいロールに付き合ってくださる皆さんに感謝を。
もうしばらくシリアスはいいです。

このページへのコメント

作成お疲れ様でしたー!
新しい交渉さんの誕生ってこんな感じだったんですねー!

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Posted by 復讐・写真 2016年08月19日(金) 11:02:21 返信

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