最終更新:ID:7bWQMSd1Hg 2016年09月08日(木) 00:19:30履歴
遠くの空に微かに陽の光が見え始めた早朝。
石造りの街にある、人気の無い一角で、風を切るような物音と微かな呼吸音がする。
「ふっ…!ふっ…!」
一定のリズムで速度を落とす事無く、何度も何度も手に持った剣を振るう男が居た。
上下共に染めていない羊の毛のような色をした簡素な服装、黒い髪を揺らし
一人で黙々と鍛錬に励んでいた。
汗を滲ませながら、数分、やがて数十分と時間が経つ頃に、ようやく素振りが終わり
彼は、剣を鞘へと収める。
「…しまったな」
背中にべったりと汗を掻き、服がへばりついてしまっている。
今日は念入りに朝の日課をこなすつもりだったが、少々夢中になりすぎてしまった。
火照る体から出る汗が不快感を誘い、髪もじっとりと湿っている。
おまけに喉もからからだった。
口に手を当てながら、空を見上げる
「この時間は……」
先ほどよりも陽が高くなっている、丁度この時間は、人々が起き出し朝食の為に
井戸などを利用している時間だろう…。
流石に汗まみれの姿で出るわけにはいかない、女性も多いはずだ…。
兵士達の宿舎にある井戸を使うか…同じく訓練している人間も多いだろうが
まぁ適当に混ざれば問題は……。
「おじさん!」
考え込んでいると後ろから聞き覚えのある元気な声が掛かる。
まったく、この辺りには来るなと言っているのに
「こら、おじさんは止めてくれと言っただろう?■■■■■■」
そう良いながら振り返る。
そこには銀の容器と布巾を持ってこちらへと来る甥の姿があった。
……無用心な。
「おいおい、■■■■■■。ここには来るなと言っただろう、それにそんな物を持ち歩くんじゃあない
悪い奴らに捕まえられて、それごとどこかに売られてしまうぞ」
「大丈夫だよ!おじさん!僕、このあたりの道詳しくなったんだよ!足にも自信があるし!」
どんな奴らからだって逃げ切ってみせるさ、とそう言ってにこやかに笑う。
「それは何度も聞いてるさ、まったく…我が甥はなんてやんちゃ坊主なんだか」
「んっ!どーぞおじさん!」
その後に続く説教を遮る様に容器を差し出して来ると中からはちゃぽちゃぽという水の音。
「…こいつは!仕方の無い奴め…、水は有り難く貰っておこう」
甥の頭をぐしぐしと撫で付けて、容器を受け取り
ぐいっと呷る、汲みあげてすぐなのか、きりっと冷えた水が喉を潤す
生き返るような気持ちだ、さらに容器の水を布巾にかけて、顔を拭う。
「ぷはっ…、ふぅ…、人心地ついた…お前も飲むか?」
「んっ、僕はいいよおじさん」
そうか、そう言って残りを呷りながら、ちらりと横目で甥に目を向ける。
その目線の先には腰に差した鞘に納まった剣に向けられている。
………。
「■■■■■■、駄目だぞ」
と、先手を打っておく。
そうするとぷくーっと頬を膨らませ不満そうに甥は抗議の声を上げる。
「いいなぁ、おじさんは戦えて、立派な剣を持ってさ。僕だって最近は戦う訓練をしてるんだよ。
僕だって立派な戦士さ」
「訓練と言っても、いまだに木刀での型だろう……。真剣はまだ危なすぎる」
「そんなことないよ!ねぇ、ちょっとだけでいいから触らせてよ!」
「駄目だったら駄目だ、お前にはまだ早い」
焦るんじゃない、と嗜めるが、それでも不満そうな顔をして顔を逸らしながら
呟く様にこう言った。
「…僕は早く戦士になりたい、立派な戦士だって認められたいんだ…」
「■■■■■■…、焦る必要はないんだ、あと数年もすればお前も武器を持って立派な戦士に……」
「待てないよー!おじさんはいいよね、父上に認められて今度の戦争で指揮官を務めるんでしょ?」
………耳の早い。
「ん…、むぅ、まぁ…な」
「僕だって武器さえあれば、ばんばん武勲を立ててやるのに!」
足をぷらぷらと揺らしながら、意気込む甥。
「生意気を言うな、こいつ」
そんな甥にごちんと頭に拳骨を見舞ってやる。
「いったぁ!!おじさん酷い!!」
「戦士ならこれぐらいで動じるな、まったく」
すぐに調子に乗るこいつにはこれぐらいが丁度良い。
殴られた頭をさすりながら、私を責めるような目で見てくるが
無視だ……、やがて無駄だと分かって下を俯き静かになる。
「……」
「……」
ざぁ、と風が吹き、髪を撫でていく。
不思議と心地の良い空気、ゆったりと流れる時間を感じる。
「………ねぇ、おじさん」
「………ん?」
ぽつりとその静寂に甥の声が流れる。
「…勝てるよね、ムーアとの戦争」
不安を孕んだ声音、じっと私を見ながらそう聞いてきた。
「…、当然だろう、心配するな」
そう、戦争をするのだ、勝つ以外はありえない。
負けを前提にしてはならない。
「うん、おじさんなら大丈夫だよね」
そう安心しきった甥の顔が、なによりも恐ろしく思えた。
敗退は…許されない。
石造りの街にある、人気の無い一角で、風を切るような物音と微かな呼吸音がする。
「ふっ…!ふっ…!」
一定のリズムで速度を落とす事無く、何度も何度も手に持った剣を振るう男が居た。
上下共に染めていない羊の毛のような色をした簡素な服装、黒い髪を揺らし
一人で黙々と鍛錬に励んでいた。
汗を滲ませながら、数分、やがて数十分と時間が経つ頃に、ようやく素振りが終わり
彼は、剣を鞘へと収める。
「…しまったな」
背中にべったりと汗を掻き、服がへばりついてしまっている。
今日は念入りに朝の日課をこなすつもりだったが、少々夢中になりすぎてしまった。
火照る体から出る汗が不快感を誘い、髪もじっとりと湿っている。
おまけに喉もからからだった。
口に手を当てながら、空を見上げる
「この時間は……」
先ほどよりも陽が高くなっている、丁度この時間は、人々が起き出し朝食の為に
井戸などを利用している時間だろう…。
流石に汗まみれの姿で出るわけにはいかない、女性も多いはずだ…。
兵士達の宿舎にある井戸を使うか…同じく訓練している人間も多いだろうが
まぁ適当に混ざれば問題は……。
「おじさん!」
考え込んでいると後ろから聞き覚えのある元気な声が掛かる。
まったく、この辺りには来るなと言っているのに
「こら、おじさんは止めてくれと言っただろう?■■■■■■」
そう良いながら振り返る。
そこには銀の容器と布巾を持ってこちらへと来る甥の姿があった。
……無用心な。
「おいおい、■■■■■■。ここには来るなと言っただろう、それにそんな物を持ち歩くんじゃあない
悪い奴らに捕まえられて、それごとどこかに売られてしまうぞ」
「大丈夫だよ!おじさん!僕、このあたりの道詳しくなったんだよ!足にも自信があるし!」
どんな奴らからだって逃げ切ってみせるさ、とそう言ってにこやかに笑う。
「それは何度も聞いてるさ、まったく…我が甥はなんてやんちゃ坊主なんだか」
「んっ!どーぞおじさん!」
その後に続く説教を遮る様に容器を差し出して来ると中からはちゃぽちゃぽという水の音。
「…こいつは!仕方の無い奴め…、水は有り難く貰っておこう」
甥の頭をぐしぐしと撫で付けて、容器を受け取り
ぐいっと呷る、汲みあげてすぐなのか、きりっと冷えた水が喉を潤す
生き返るような気持ちだ、さらに容器の水を布巾にかけて、顔を拭う。
「ぷはっ…、ふぅ…、人心地ついた…お前も飲むか?」
「んっ、僕はいいよおじさん」
そうか、そう言って残りを呷りながら、ちらりと横目で甥に目を向ける。
その目線の先には腰に差した鞘に納まった剣に向けられている。
………。
「■■■■■■、駄目だぞ」
と、先手を打っておく。
そうするとぷくーっと頬を膨らませ不満そうに甥は抗議の声を上げる。
「いいなぁ、おじさんは戦えて、立派な剣を持ってさ。僕だって最近は戦う訓練をしてるんだよ。
僕だって立派な戦士さ」
「訓練と言っても、いまだに木刀での型だろう……。真剣はまだ危なすぎる」
「そんなことないよ!ねぇ、ちょっとだけでいいから触らせてよ!」
「駄目だったら駄目だ、お前にはまだ早い」
焦るんじゃない、と嗜めるが、それでも不満そうな顔をして顔を逸らしながら
呟く様にこう言った。
「…僕は早く戦士になりたい、立派な戦士だって認められたいんだ…」
「■■■■■■…、焦る必要はないんだ、あと数年もすればお前も武器を持って立派な戦士に……」
「待てないよー!おじさんはいいよね、父上に認められて今度の戦争で指揮官を務めるんでしょ?」
………耳の早い。
「ん…、むぅ、まぁ…な」
「僕だって武器さえあれば、ばんばん武勲を立ててやるのに!」
足をぷらぷらと揺らしながら、意気込む甥。
「生意気を言うな、こいつ」
そんな甥にごちんと頭に拳骨を見舞ってやる。
「いったぁ!!おじさん酷い!!」
「戦士ならこれぐらいで動じるな、まったく」
すぐに調子に乗るこいつにはこれぐらいが丁度良い。
殴られた頭をさすりながら、私を責めるような目で見てくるが
無視だ……、やがて無駄だと分かって下を俯き静かになる。
「……」
「……」
ざぁ、と風が吹き、髪を撫でていく。
不思議と心地の良い空気、ゆったりと流れる時間を感じる。
「………ねぇ、おじさん」
「………ん?」
ぽつりとその静寂に甥の声が流れる。
「…勝てるよね、ムーアとの戦争」
不安を孕んだ声音、じっと私を見ながらそう聞いてきた。
「…、当然だろう、心配するな」
そう、戦争をするのだ、勝つ以外はありえない。
負けを前提にしてはならない。
「うん、おじさんなら大丈夫だよね」
そう安心しきった甥の顔が、なによりも恐ろしく思えた。
敗退は…許されない。
このページへのコメント
ムーアとの戦争……あっ(察し)
作成お疲れ様です。結末が分かるだけに悲しい……
ふむ、誰のことやら。
夢の世界くらい、幸せがいいの。
とても面白かったです。
作成お疲れ様です!
なんだかのびのびとしていていいですねー、ちょっと不安なこともありますが……
ほのぼのとした風景、なのだが不吉な影が指してる気がしてならない。