最終更新:ID:+0JJK++0YA 2016年08月15日(月) 12:26:26履歴
――――そのあとも、まぁ色々とあったわ。宴会の地続きでみんなでわいわいしてたら、悪ふざけでジュースに偽装されたお酒を飲んで思いっきり酔っ払っちゃって、ライダーに介抱されたり。
一旦離席してた現世のアサシンが戻って来て、写真のアヴェンジャーに告白を受けたり、告白したり。
あと、それと。
「ならば余の……イェ=メンの光で写真殿の闇を優しく包み込み、個の魂が続く限り、貴女を愛することを誓おう」
「なら私は……名前は捨ててしまったから、名もなき戦場記者として貴方の事を愛し、個の魂が枯れ果て堕ちるときまで、貴方のそばにいると誓います」
「・・・」
二人が今まさにキスしようってときに、ライダーは無言で、そのままそっと部屋から立ち去っていた。帰り際に何人かのサーヴァントに声をかけられてたけど、それもあっさり打ち切って。
いつもの、人当たりの良いアイツからじゃ考えられない態度だった。
「…………ライダー……」
わたしが、思わずぽろりと呟いたら、
「ここにいていいのかい?」
ルーラーが真っ先に声をかけてきた。
「……いいのよ。あいつ、そうやって立ち直る柄じゃないでしょ」
これは本心だった。……まだアイツの中で、多分気持ちの整理ができてないと思うの。そんな状態で何かしようとしても、多分、よけいぐちゃぐちゃになるだけだと思うから。
それから、猫背のアヴェンジャーや剣姫のセイバーの一側面――夜叉のアヴェンジャーもわたしの方に声をかけてきた。……なんだ、わたしだけかと思ったら、みんなアイツのこと見てるんじゃない。……ちょっとむっとしたけど。
「……どうした?……あいつが心配か…そうだな、あとで…今でもいいか。様子見に行ってこい…俺じゃあ役不足みたいだからな…」
『……行きなさいな、貴女の気持ちのままにねぇ…』
「心配なんかじゃ、ないわ。…………ええ。わたしの気持ちのままに。そうさせてもらうわ」
……本当は、心配だけど。
でも、そうは言わない。……心配って、わたしが言っちゃったら……アイツも格好つかないでしょう?
そう、噛み締めるように、自分に言い聞かせるように思っていたら、
「今はそっとしてやるといい、気持ちの整理も必要だろうからな」
鬼神のライダーが、ぽんと肩に手を置いた。
……浮ついた気持ちが、すっと落ち着けられるようだった。
「ええ、分かってるわ。………………分かってますとも」
「まぁもうちょっとしたら行ってやったら?1人酒呑んで黄昏てそうだしなー」
と、不意に裸王のルーラーにあっけらかんと声をかけられた。
振り向くと、ルーラーはかちゃかちゃとカメラを弄りまわしながら、
「ほいパシャリっと!」
わたしの顔を、一枚撮った。
「せめてこの場その顔はやめてやんな」
…………言われて、気付いた。
そうだったわ。この場は、写真のアヴェンジャーと現世のアサシンのおめでたい場所だった。こんな場で辛気臭い顔してたら、二人にも悪いわよね。
…………何より、そのことで二人とアイツの間が気まずくなるのも、いやだし。
「……、そう、ね! せっかくのお祝いの席なんだもんね!」
そう言った頃には、多分わたしの表情は、いつもみたいになっていたと、思う。
「コソコソ」
……………………この馬鹿が出て来るまでは。
「……ん?」
視線を落としてみると、幼性のバーサーカーが地面を這いずりながら、わたしのスカートの仲を覗こうとしていた。
…………………………。
……本当に、こいつは、こんな時なのに………………。
「――――――こっ、の、変態はこんな場でも相変わらず見境なく……! いいわ、そんなに見たいなら見せてやるわよ、ただしわたしの『宝具』をね――――――!!」
「…まて、宝具はまずい、影響が大きすぎる…ここが滅茶苦茶になる可能性があるぞ?俺も手伝う、地道においかけるのが一番だと思うんだが…」
「どうせ足じゃ追いつかないんだからブッ放すわ!大丈夫射線は確保してるから!」
実際、他の連中はわたしとバーサーカーの間には全くいなかった。
…………アイツを除いて。
っていうか、多分バーサーカーは、これを狙ってわざとわたしのスカートの中を覗くフリをしていたんだろうけど。
「盛衰が襲ってくるデース(棒」
明らかに棒読みだと分かる調子で言いながら、バーサーカーはアイツのもとに飛び込んで行った。
「逃がさないわよ! 食らいなさい壇ノ浦に沈んだつわものどもの怨念! 『春夢幻想:神剣・天叢雲』――――って、ちょっとそっちは……!!」
バーサーカーが飛び込んだ先にいたのは――――。
「・・・・・・へぇその話俺にも詳しく効かせてくれよ?」
――――ライダーだった。
「わぁぁぁぁぁライダーどいてよけてにげてかわしてぇぇぇぇぇぇ!!!!」
力の限り、出しかけた宝具を抑えようとしてみるけど……無理。もう九分九厘解放しちゃってるから、今更抑えようとしてもできなかった。今のわたしにできるのは、せめてライダーだけでも巻き込まないように叫ぶことだけだったわ。
「いくら!狂犬の旦那でも!俺の!道は!じゃまさせねぇ!(熱血)」
「お前も一緒に宝具食らうんだよ!」
「ねぇ?この感じ俺が一番前じゃね?」
「おおー!見つかったデース!狂犬ガードデース!」
「一緒に逝こうぜ!盛衰ぶっぱなせぇ!」
「あーもう駄目抑えきれない――――『剣』!」
ライダーが裸王のルーラーに組み付いたり、ルーラーが絶望したりしてり、ライダーとバーサーカーが互いに掴み合ったりしてるのを尻目に、わたしの宝具は限界を超えた。
…………多分、ギリギリまで溜めたのが悪かったんでしょうね。『神剣・天叢雲剣』は『春夢幻想』の中でも特に強い宝具だけど――それでも精々ランクはB。ライダー周辺に怨念の波を浴びせる程度だったんだけど……。
…………『今回』のは、ゆうにランクAはあるんじゃないかっていうくらいの、奇跡の大怨念の波が放出されてしまった。…………まぁ、零落しているとはいえ元々は三種の神器なんだし、このくらい強くて当たり前ではあるんだけど…………。
『無理ねぇ…』
『ふむ。シールド機械は張っておこう』
「ぬう……!」
「……ッ!」
「まだだぁ!法典展開!」
「くっ、宝具開帳!杜よ開け!」
「まずい…」
「なんだありゃ、ヤベェ宝具解放!我に追い付ける者無し、千里疾走・赤兎之如く!!」
「まずい、威力が強すぎます…!せめて交渉ちゃんだけでも守らないと…!雪霞狼!」
「これは不味いな…『白き盾』(セイント・シールド)を発動!」
「私も協力するさ!極東戦歌!」
「駄目だなこれ…『悪縛王・悪神召喚』!」
「『欺海和邇!』悪友共よ盾になって!たまには働いて!」
………………即座にみんなが出張ってくれたおかげで、なんとか大事故にはならずに済んだ。……それでも何人か、モロに食らってダメージを受けちゃったみたいだけど。
その後は大人しく謝ったけど……森番のバーサーカーと雪霞のランサーには軽い注意を受けちゃったわ。
「ふう……展開した森の三分の二は消し飛びましたね…………これからは気を付けてくださいね?」
「ごめんなさい、自分でもあんなに威力が出るとは……」
「本当ですよ!何があったのかわかりませんがあれはやりすぎです!」
「ごめんなさい、幼性のバーサーカーにパンツ覗かれそうになって、ついかっと……」
「あー、それは…向こうに非がありますね。とはいえここまで大きく展開するのはやり過ぎですよ。あの人一人だけなら問題ないかもしれませんが。次は気を付けてくださいね?」
「全く、危ないじゃないデスか!」
「あんたに言われたくはないわよ!!」
『はぁ…』
バーサーカーの馬鹿に言い返したりしていたわたしに溜息を吐いたのは、夜叉のアヴェンジャーだったかしら。
『餓者』
「わ!?」
そう言った瞬間、アヴェンジャーの背後から禍々しい怨念が迸り、それが髑髏の腕を形成した。そしてそれは目にもとまらぬ速さで、言い合いをしていたわたしを掴み――、
ぽいっ、と。
軽く放り投げてしまった。
「わぁ!」
「おっと!盛衰お前飛べるようになったのか?」
「ひゃあ!」
…………キャッチしたのは、ライダーだった。
「うぅ……ありがと」
言いながら、わたしはふっと気付いた。…………ここまでの流れ、あんまりにも出来過ぎてないかしら? もしかして……。
「(……バーサーカー、あいつこの為に……余計な気を…………)」
確かに、話せる機会を用意してくれるのは、いいんだけど……。何もここまでする必要はないじゃない……!
「ぶつぶついいやがって何かあったのか?ってかとりあえず下ろすぞー」
考え込んでたら、ライダーはそう言ってわたしのことを下ろしていた。……っていうか、わたしアイツに抱きかかえられてたの……!? …………意識して、公衆の面前で抱きかかえられていたハズかしさに、ちょっと顔が赤くなった気がするけど、気分を落ち着ける。うん、大丈夫よ。
「な、なんでもないのよ!」
とりあえず、わたしは誤魔化すようにして言って、
「…………にしても、宴会って感じの空気じゃなくなっちゃったわね。まぁ、半分以上はわたしのせいなんだけど……」
もう半分以下は全部バーサーカーのせいね。
「いけー!そこで押し倒すデース!」
…………全然悪びれる様子もないしね。
ギロリ、とわたしはバーサーカーをねめつける。視線で人が殺せるなら、まぁ半殺しくらいにはなる程度にね。
「別にいつもの事じゃねえか!そう落ち込むなっての」
ライダーは笑ってあっさりと流し、
「あ、そうださっき鬼神にジュースもらったんだけど飲むか?」
「え? あぁ、ありがと……」
不意の事に反応しきれなかったけど、とりあえず受け取って飲む。色々と暴れたせいで魔力消費も(座の仮想空間みたいな場所とはいえ)馬鹿にならないし、けっこう喉も乾いてたんだけど……。
「……んくっんくっ……ぷはぁ! 久しぶりに暴れたから、喉がかわいてたのよ」
「おう、よかったな!まあ、幼性のはあとで搾り上げようじゃねえか」
「…ったく、だから宝具はやめろって言ったんだがな…」
そこで、ぼやくように言う声があった。
猫背のアヴェンジャー。……そういえば、さっきわたしに宝具の使用を制止してたっけ。わたしは射線は開いてるって言って……結果はまぁ、不慮の暴走とか助けに入った人とかでしっちゃかめっちゃかだったけど。
「…あー狂犬、ちょっとそいつ連れて外行って来い。当事者がいるとちょっと気まずいだろ…」
「ん?おう、了解!気を遣わせて悪いな!」
わたしは、一瞬意味が分からなかったのだけど――――、
「んじゃ、盛衰ちょっと外行かねえか?」
「う、うん!分かった……」
ここからが正念場だってことは、すぐに分かった。
一旦外に出たわたし達だったけれど、特に会話はなかった。……だって、どっちもどういう話を切り出したらいいのかさえ分からないんだもの。
「(といっても、連れ出したからって話す内容思いつくかというと・・・)」
ライダーは相変わらず唸ってるし……だから、切り出すならわたしからだと、すぐに思った。
「………………………………あ!あのね!」
「ん、なんだ盛衰の?」
…………ここから先は、一歩も引けない。……怖くなっても。そう思うと、なんだか急に喋りづらくなった。でも――――。
「えっと……さ、さっきの、あんたは気にしてないって言ってたけど、わたしにはなんだか辛そうに見えて……。………………だから、うまく言えないんだけど、その、無理してるんじゃないかなって、ちょっと心配で……」
話し始めた途端に、それまであった何を言おうかって考えは一気に吹っ飛んじゃって。真っ白な頭で、それでもわたしは伝えたいことをただ伝える。
「……うー、なんていうか、その、気にしないって言うのは、そりゃ、むずかしいと思うけど………………」
その先の言葉を遮るように、ぽん、とわたしの頭の上に手が置かれた。
ライダーの、大きな手。……でも、それはどちらかというと、拒絶の、隠蔽の意味を含んでいるように、わたしには思えた。
まぁ、それでも勇気をもらえたんだけど、ね。
「んなこと考えてたのか?別に盛衰のが気にすることじゃねえっての。俺はもう大丈夫だし、辛くもねえし無理もしてねえよ!」
それから、わたしのことを労わるように、ふっと小さく笑う。
「ま、だけど心配してくれたんだよな、ありがとう盛衰」
ゆっくりと頭の上に置かれた手に撫でられ、それから手が離れて行った。
――――このままにしてちゃダメだ!
わたしは、強くそう思った。
「そっ、そうじゃないの!」
わたしは離れていきそうなライダーの手を両手でつかんで、そう言った。
「だって、そう。あんたアヴェンジャーとアサシンが一緒にいたとき、一人で部屋から出て行ったでしょ! 辛くもないし無理もしてないなんて、多分うそ。確かにあんたは強いから、すぐに立ち直っちゃうのかもしれないけど……。だからわたしが言いたいのは、もっとこう、」
しょげてるところなんて、らしくない。
……もっと笑顔でいてほしい。
だから…………勝手に立ち直れるくらい強いあんたに必要なのは、多分慰めとかじゃなくって。
「胸を張ってどんと構えてなさいってことなのよ! ――――――――あんたの隣には、ちゃあんとわたしがいるんだからね!」
「・・・」
ライダーは、そんなわたしのことを少しだけ見ていたけど。
「おう、んじゃあ、お前に情けないとこ見せねえように頑張らねえとな!」
そう、笑ってくれた。
「ありがとな、盛衰の!」
そう言って、ライダーは少し乱暴に、わしゃわしゃとわたしの頭を撫でた。
「……んっ!分かればいいのよ、分かれば!」
それが気持ちよくって、わたしは、ライダーに撫でられるがままにしていた。
なんだかとっても、安心する感触だった。
………………その後? まぁなんか他のヤツらが一部始終を覗き見してたことに気付いたり、何故かわたしがライダーに告白したことになってたり(アイツがしょげてたから喝入れてやっただけなのよ! まったく!)、色々あって後処理が面倒だったわよ。まったくここの連中ときたら、なんにつけても騒ぐんだから困ったものよね。
…………まぁ、それも楽しいかなって、最近は思うようになったんだけれど。
一旦離席してた現世のアサシンが戻って来て、写真のアヴェンジャーに告白を受けたり、告白したり。
あと、それと。
「ならば余の……イェ=メンの光で写真殿の闇を優しく包み込み、個の魂が続く限り、貴女を愛することを誓おう」
「なら私は……名前は捨ててしまったから、名もなき戦場記者として貴方の事を愛し、個の魂が枯れ果て堕ちるときまで、貴方のそばにいると誓います」
「・・・」
二人が今まさにキスしようってときに、ライダーは無言で、そのままそっと部屋から立ち去っていた。帰り際に何人かのサーヴァントに声をかけられてたけど、それもあっさり打ち切って。
いつもの、人当たりの良いアイツからじゃ考えられない態度だった。
「…………ライダー……」
わたしが、思わずぽろりと呟いたら、
「ここにいていいのかい?」
ルーラーが真っ先に声をかけてきた。
「……いいのよ。あいつ、そうやって立ち直る柄じゃないでしょ」
これは本心だった。……まだアイツの中で、多分気持ちの整理ができてないと思うの。そんな状態で何かしようとしても、多分、よけいぐちゃぐちゃになるだけだと思うから。
それから、猫背のアヴェンジャーや剣姫のセイバーの一側面――夜叉のアヴェンジャーもわたしの方に声をかけてきた。……なんだ、わたしだけかと思ったら、みんなアイツのこと見てるんじゃない。……ちょっとむっとしたけど。
「……どうした?……あいつが心配か…そうだな、あとで…今でもいいか。様子見に行ってこい…俺じゃあ役不足みたいだからな…」
『……行きなさいな、貴女の気持ちのままにねぇ…』
「心配なんかじゃ、ないわ。…………ええ。わたしの気持ちのままに。そうさせてもらうわ」
……本当は、心配だけど。
でも、そうは言わない。……心配って、わたしが言っちゃったら……アイツも格好つかないでしょう?
そう、噛み締めるように、自分に言い聞かせるように思っていたら、
「今はそっとしてやるといい、気持ちの整理も必要だろうからな」
鬼神のライダーが、ぽんと肩に手を置いた。
……浮ついた気持ちが、すっと落ち着けられるようだった。
「ええ、分かってるわ。………………分かってますとも」
「まぁもうちょっとしたら行ってやったら?1人酒呑んで黄昏てそうだしなー」
と、不意に裸王のルーラーにあっけらかんと声をかけられた。
振り向くと、ルーラーはかちゃかちゃとカメラを弄りまわしながら、
「ほいパシャリっと!」
わたしの顔を、一枚撮った。
「せめてこの場その顔はやめてやんな」
…………言われて、気付いた。
そうだったわ。この場は、写真のアヴェンジャーと現世のアサシンのおめでたい場所だった。こんな場で辛気臭い顔してたら、二人にも悪いわよね。
…………何より、そのことで二人とアイツの間が気まずくなるのも、いやだし。
「……、そう、ね! せっかくのお祝いの席なんだもんね!」
そう言った頃には、多分わたしの表情は、いつもみたいになっていたと、思う。
「コソコソ」
……………………この馬鹿が出て来るまでは。
「……ん?」
視線を落としてみると、幼性のバーサーカーが地面を這いずりながら、わたしのスカートの仲を覗こうとしていた。
…………………………。
……本当に、こいつは、こんな時なのに………………。
「――――――こっ、の、変態はこんな場でも相変わらず見境なく……! いいわ、そんなに見たいなら見せてやるわよ、ただしわたしの『宝具』をね――――――!!」
「…まて、宝具はまずい、影響が大きすぎる…ここが滅茶苦茶になる可能性があるぞ?俺も手伝う、地道においかけるのが一番だと思うんだが…」
「どうせ足じゃ追いつかないんだからブッ放すわ!大丈夫射線は確保してるから!」
実際、他の連中はわたしとバーサーカーの間には全くいなかった。
…………アイツを除いて。
っていうか、多分バーサーカーは、これを狙ってわざとわたしのスカートの中を覗くフリをしていたんだろうけど。
「盛衰が襲ってくるデース(棒」
明らかに棒読みだと分かる調子で言いながら、バーサーカーはアイツのもとに飛び込んで行った。
「逃がさないわよ! 食らいなさい壇ノ浦に沈んだつわものどもの怨念! 『春夢幻想:神剣・天叢雲』――――って、ちょっとそっちは……!!」
バーサーカーが飛び込んだ先にいたのは――――。
「・・・・・・へぇその話俺にも詳しく効かせてくれよ?」
――――ライダーだった。
「わぁぁぁぁぁライダーどいてよけてにげてかわしてぇぇぇぇぇぇ!!!!」
力の限り、出しかけた宝具を抑えようとしてみるけど……無理。もう九分九厘解放しちゃってるから、今更抑えようとしてもできなかった。今のわたしにできるのは、せめてライダーだけでも巻き込まないように叫ぶことだけだったわ。
「いくら!狂犬の旦那でも!俺の!道は!じゃまさせねぇ!(熱血)」
「お前も一緒に宝具食らうんだよ!」
「ねぇ?この感じ俺が一番前じゃね?」
「おおー!見つかったデース!狂犬ガードデース!」
「一緒に逝こうぜ!盛衰ぶっぱなせぇ!」
「あーもう駄目抑えきれない――――『剣』!」
ライダーが裸王のルーラーに組み付いたり、ルーラーが絶望したりしてり、ライダーとバーサーカーが互いに掴み合ったりしてるのを尻目に、わたしの宝具は限界を超えた。
…………多分、ギリギリまで溜めたのが悪かったんでしょうね。『神剣・天叢雲剣』は『春夢幻想』の中でも特に強い宝具だけど――それでも精々ランクはB。ライダー周辺に怨念の波を浴びせる程度だったんだけど……。
春夢幻想:神剣・天叢雲剣 威力 | 【1D100:98】 |
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…………『今回』のは、ゆうにランクAはあるんじゃないかっていうくらいの、奇跡の大怨念の波が放出されてしまった。…………まぁ、零落しているとはいえ元々は三種の神器なんだし、このくらい強くて当たり前ではあるんだけど…………。
『無理ねぇ…』
『ふむ。シールド機械は張っておこう』
「ぬう……!」
「……ッ!」
「まだだぁ!法典展開!」
「くっ、宝具開帳!杜よ開け!」
「まずい…」
「なんだありゃ、ヤベェ宝具解放!我に追い付ける者無し、千里疾走・赤兎之如く!!」
「まずい、威力が強すぎます…!せめて交渉ちゃんだけでも守らないと…!雪霞狼!」
「これは不味いな…『白き盾』(セイント・シールド)を発動!」
「私も協力するさ!極東戦歌!」
「駄目だなこれ…『悪縛王・悪神召喚』!」
「『欺海和邇!』悪友共よ盾になって!たまには働いて!」
………………即座にみんなが出張ってくれたおかげで、なんとか大事故にはならずに済んだ。……それでも何人か、モロに食らってダメージを受けちゃったみたいだけど。
その後は大人しく謝ったけど……森番のバーサーカーと雪霞のランサーには軽い注意を受けちゃったわ。
「ふう……展開した森の三分の二は消し飛びましたね…………これからは気を付けてくださいね?」
「ごめんなさい、自分でもあんなに威力が出るとは……」
「本当ですよ!何があったのかわかりませんがあれはやりすぎです!」
「ごめんなさい、幼性のバーサーカーにパンツ覗かれそうになって、ついかっと……」
「あー、それは…向こうに非がありますね。とはいえここまで大きく展開するのはやり過ぎですよ。あの人一人だけなら問題ないかもしれませんが。次は気を付けてくださいね?」
「全く、危ないじゃないデスか!」
「あんたに言われたくはないわよ!!」
『はぁ…』
バーサーカーの馬鹿に言い返したりしていたわたしに溜息を吐いたのは、夜叉のアヴェンジャーだったかしら。
『餓者』
「わ!?」
そう言った瞬間、アヴェンジャーの背後から禍々しい怨念が迸り、それが髑髏の腕を形成した。そしてそれは目にもとまらぬ速さで、言い合いをしていたわたしを掴み――、
ぽいっ、と。
軽く放り投げてしまった。
「わぁ!」
「おっと!盛衰お前飛べるようになったのか?」
「ひゃあ!」
…………キャッチしたのは、ライダーだった。
「うぅ……ありがと」
言いながら、わたしはふっと気付いた。…………ここまでの流れ、あんまりにも出来過ぎてないかしら? もしかして……。
「(……バーサーカー、あいつこの為に……余計な気を…………)」
確かに、話せる機会を用意してくれるのは、いいんだけど……。何もここまでする必要はないじゃない……!
「ぶつぶついいやがって何かあったのか?ってかとりあえず下ろすぞー」
考え込んでたら、ライダーはそう言ってわたしのことを下ろしていた。……っていうか、わたしアイツに抱きかかえられてたの……!? …………意識して、公衆の面前で抱きかかえられていたハズかしさに、ちょっと顔が赤くなった気がするけど、気分を落ち着ける。うん、大丈夫よ。
「な、なんでもないのよ!」
とりあえず、わたしは誤魔化すようにして言って、
「…………にしても、宴会って感じの空気じゃなくなっちゃったわね。まぁ、半分以上はわたしのせいなんだけど……」
もう半分以下は全部バーサーカーのせいね。
「いけー!そこで押し倒すデース!」
…………全然悪びれる様子もないしね。
ギロリ、とわたしはバーサーカーをねめつける。視線で人が殺せるなら、まぁ半殺しくらいにはなる程度にね。
「別にいつもの事じゃねえか!そう落ち込むなっての」
ライダーは笑ってあっさりと流し、
「あ、そうださっき鬼神にジュースもらったんだけど飲むか?」
「え? あぁ、ありがと……」
不意の事に反応しきれなかったけど、とりあえず受け取って飲む。色々と暴れたせいで魔力消費も(座の仮想空間みたいな場所とはいえ)馬鹿にならないし、けっこう喉も乾いてたんだけど……。
「……んくっんくっ……ぷはぁ! 久しぶりに暴れたから、喉がかわいてたのよ」
「おう、よかったな!まあ、幼性のはあとで搾り上げようじゃねえか」
「…ったく、だから宝具はやめろって言ったんだがな…」
そこで、ぼやくように言う声があった。
猫背のアヴェンジャー。……そういえば、さっきわたしに宝具の使用を制止してたっけ。わたしは射線は開いてるって言って……結果はまぁ、不慮の暴走とか助けに入った人とかでしっちゃかめっちゃかだったけど。
「…あー狂犬、ちょっとそいつ連れて外行って来い。当事者がいるとちょっと気まずいだろ…」
「ん?おう、了解!気を遣わせて悪いな!」
わたしは、一瞬意味が分からなかったのだけど――――、
「んじゃ、盛衰ちょっと外行かねえか?」
「う、うん!分かった……」
ここからが正念場だってことは、すぐに分かった。
一旦外に出たわたし達だったけれど、特に会話はなかった。……だって、どっちもどういう話を切り出したらいいのかさえ分からないんだもの。
「(といっても、連れ出したからって話す内容思いつくかというと・・・)」
ライダーは相変わらず唸ってるし……だから、切り出すならわたしからだと、すぐに思った。
「………………………………あ!あのね!」
「ん、なんだ盛衰の?」
…………ここから先は、一歩も引けない。……怖くなっても。そう思うと、なんだか急に喋りづらくなった。でも――――。
「えっと……さ、さっきの、あんたは気にしてないって言ってたけど、わたしにはなんだか辛そうに見えて……。………………だから、うまく言えないんだけど、その、無理してるんじゃないかなって、ちょっと心配で……」
話し始めた途端に、それまであった何を言おうかって考えは一気に吹っ飛んじゃって。真っ白な頭で、それでもわたしは伝えたいことをただ伝える。
「……うー、なんていうか、その、気にしないって言うのは、そりゃ、むずかしいと思うけど………………」
その先の言葉を遮るように、ぽん、とわたしの頭の上に手が置かれた。
ライダーの、大きな手。……でも、それはどちらかというと、拒絶の、隠蔽の意味を含んでいるように、わたしには思えた。
まぁ、それでも勇気をもらえたんだけど、ね。
「んなこと考えてたのか?別に盛衰のが気にすることじゃねえっての。俺はもう大丈夫だし、辛くもねえし無理もしてねえよ!」
それから、わたしのことを労わるように、ふっと小さく笑う。
「ま、だけど心配してくれたんだよな、ありがとう盛衰」
ゆっくりと頭の上に置かれた手に撫でられ、それから手が離れて行った。
――――このままにしてちゃダメだ!
わたしは、強くそう思った。
「そっ、そうじゃないの!」
わたしは離れていきそうなライダーの手を両手でつかんで、そう言った。
「だって、そう。あんたアヴェンジャーとアサシンが一緒にいたとき、一人で部屋から出て行ったでしょ! 辛くもないし無理もしてないなんて、多分うそ。確かにあんたは強いから、すぐに立ち直っちゃうのかもしれないけど……。だからわたしが言いたいのは、もっとこう、」
しょげてるところなんて、らしくない。
……もっと笑顔でいてほしい。
だから…………勝手に立ち直れるくらい強いあんたに必要なのは、多分慰めとかじゃなくって。
「胸を張ってどんと構えてなさいってことなのよ! ――――――――あんたの隣には、ちゃあんとわたしがいるんだからね!」
「・・・」
ライダーは、そんなわたしのことを少しだけ見ていたけど。
「おう、んじゃあ、お前に情けないとこ見せねえように頑張らねえとな!」
そう、笑ってくれた。
「ありがとな、盛衰の!」
そう言って、ライダーは少し乱暴に、わしゃわしゃとわたしの頭を撫でた。
「……んっ!分かればいいのよ、分かれば!」
それが気持ちよくって、わたしは、ライダーに撫でられるがままにしていた。
なんだかとっても、安心する感触だった。
………………その後? まぁなんか他のヤツらが一部始終を覗き見してたことに気付いたり、何故かわたしがライダーに告白したことになってたり(アイツがしょげてたから喝入れてやっただけなのよ! まったく!)、色々あって後処理が面倒だったわよ。まったくここの連中ときたら、なんにつけても騒ぐんだから困ったものよね。
…………まぁ、それも楽しいかなって、最近は思うようになったんだけれど。
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すごく面白かったデース!
それにしても良かったデース・・・・狂犬との私の黒歴史(キャラ崩壊)は晒されなかったデース