『調停・交渉さんと弓兵・流姫さんのティータイム。』

ここは英霊の座、水面が地平線まで続き
空が水面に鮮やかに写り、どちらが空か、どちらか水面かも分からない
美しくも、曖昧で、静謐で、殺風景で、神秘的な場所。

けれど賑やかで、騒がしく、思ったよりも楽しい私たちがいる。

…、だがその日だけは違った。

「竜に縁ある姫か。」

そんな一言が掛けられたと思ったら

英霊の座には、白く丸いてーぶるに、二脚の簡素な白い椅子

私と彼と一対一の会話の場所が出来上がっていた。

「…ふぇ?」

「おっと、いきなりあざといな君は、だが、それがいい、ベネだ」

そういうと少し乱れている髪を手櫛で掻きあげ、椅子に背を預け
片膝に足を乗せながら。

「さて、何故こんな場が提供されているのか不明だが、良い機会だね?
 良かったら私と話でもしよう」

そう言葉を区切り、不敵に笑いながらこう言った。

「かくゆう私も竜には縁があってね」

同じく英霊で、役割は違えど仲間である

調停(ルーラー)そして、弓兵(アーチャー)流姫がここに記す。

交渉という名の戦いを興じる彼との対話が始まった。


「いや、それにしても便利だ、まさかこんな物も出てくるとは」

「えぇ、はぁ…。」

ふわりとハイカラな茶器から湯気を立てる、確かこぉーひぃーと言った西洋の飲み物と
私の目の前には、緑茶が注がれた湯飲みが鎮座していた。

「匂いも悪くない、まぁ及第点だな」

調停(ルーラー)は其れを手に取り、鼻に近づけながら匂いを楽しみながらそう言った。

「あのぉ…」

その様子を見て、つい声を掛けてしまう。

「ん?なんだね?」

「その、貴方様は、その、随分落ち着いていらっしゃいますが…この状況は…?」

「ふむ…、はっはっは、弓兵(アーチャー)、落ち着いて周りを見たまえ」

まるで、何か見落としているぞ。そう言わんばかりの言葉に、私はぐるりと周りを注視する。

だが視線を上に下へ向けようと、いつもと変わらぬ風景がそこにある。

視線を調停(ルーラー)に向ければ、試しているかのように私をじっと見ている。

……やはりどこか見落としているのだろうか……。

頭の中の疑念を解消しようと、またも周囲に眼を向けるが…やはりいつもの光景だ。

おかしいと言えばこの状況ぐらいなものであった。

「……、貴方様は何にお気づきに…」

「んん?ギブアップかね、いや残念だ…」

こくりと喉を鳴らし、こぉーひぃーを優雅に飲む彼の一言は自信に溢れている。
少々悔しい気持ちもあるが、気づけない以上、彼の言葉を待つしか…。

「実は、私も分からん」

「はい???」

耳を疑った。

「まったくもって分からんと言ったんだよ、ちゃんと聞いて欲しいものだ」

やれやれと頭を振りながら彼の台詞は、無駄に偉そうで、無性に腹が立つ。

「……、貴方、どうしてそんなに落ち着いているんです?」

「おっと、様が取れてしまったようだね?」

当然です、どうやら私は彼にからかわれたらしい。

「まったく、めっですよ」

「はっはっは、すまないね。だがどうやら害意ある状況でも無いらしい」

スッと、さきほど飲んだこぉーひぃーを掲げ、もう一度口をつける

「この身になって効くか分からないが、毒は無いようだよ。
 いまなら特別に私と二人きり楽しいティータイムでもどうかな?」

「……、少しだけですよ?ちゃんと後で辺りを調べますからね」

ふぅ、と私はため息を吐き、湯飲みに手を伸ばす。
口をつける。

スッと鼻を過ぎる、葉の香り、ほどよい熱さの緑茶の甘みと苦味が優しく過ぎていく。

「…ところで、いいかな?」

「はい?」

久しぶりの茶の味に、すっかり気持ちは落ち着き、彼の言葉に耳を傾ける。

「また、めっと言ってくれないかね?」

「…もういいません」


END

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

どなたでも編集できます