最終更新:ID:iEezPhxOUA 2016年08月14日(日) 14:59:16履歴
クラウス・シュテルテベーカー。
あの狂犬について知ってるか、だと?
ああ――まあ知っているには知っている。だが大したことは知っちゃいない。
時代も違えば管轄も違う。俺なんかよりもっと詳しく話せる奴が――居ない? あいつを一番知ってそうだったのが俺だった?
……まあいい。どうせ今は頼まれている仕事も無い。知っていることくらいは教えてやる。
――奴が活躍していた海はバルト海、スカンディナビアとヨーロッパに囲まれた狭苦しい海域だ。
俺がゴミ掃除してたカリブ海の海賊共はバッカニーアと呼ばれたが、あの海域ならば奴らの呼び名はヴァイキングに変わる。
まあ、シュテルテベーカーの時代にはすでに死語だった言葉だ――奴を正しく言うならヴァイキングの末裔、だろうな。
そして海賊としてのクラウス・シュテルテベーカー。
これは俺の所感になるが、少なくとも俺は奴を海賊として落第だと思っている。……怒ったか? だが事実だ。奴と比べればまだ俺の方が少しは海賊らしい。
私掠船でも無い癖に襲う船を選ぶような七面倒臭い海賊だ。何でも、奪われた奴が首を括らない程度の裕福な商船しか襲わなかったらしい。
挙句の果てに敵のはずのハンザ同盟と手を組んで、契約も一切違えずに食糧輸送なんて使い走りの仕事をこなし始めた。
何が『狂犬』だ、笑わせる。まるで質のいい忠犬だ。
最終的に奴は同盟を結んでいた騎士団・諸侯に裏切られ、食料輸送で助けてやったハンザ同盟に処刑された。本当に呆れる、見えていた結末だ。
だが、それなのに奴は船員百人を超える大海賊の長だった。信じられるか? 俺の知ってるゴミ共なら、こんな奴、軟弱者としてとっくに船長から追放されている。
海賊共は船長だろうが船員の多数決には絶対に逆らえない。
船員を増やせば増やすほど長の権限は薄まってくってのに、奴がどうやって最後まで船長で居続けられたのが俺には不思議でしょうがない。
なあ、お前は何でだと思う?
――そうか。まあ、そうかもな。
シュテルテベーカーの最も有名な逸話にこんな話がある。
『クラウス・シュテルテベーカーという海賊は処刑の間際にこう言った。「俺が首を落とされてから、歩いた歩数の数だけ手下を助けてくれ」
そう言った直後にクラウスは処刑された。すると、首の無いその死体はむくりと起き上がり、十一歩分歩いてから崩れ落ちた』
――これを美談だと、後の世の人間は語ってる。
だがこの逸話に関して、奴を拿捕せんと船を走らせていた同業者連中の意見はどうやら違ったらしい。奴ら曰く――
「なぁ、オイ。あのクラウス・シュテルテベーカーが、『死後歩いた分だけ仲間を助ける』って条件で――――たった十一歩しか歩けなかったらしいぜ」とさ。
当時の海賊討伐艦隊の共通の見解はこうだ。
"後ろ盾にあった騎士団の裏切りでシュテルテベーカーの心が揺れていなければ――
奴は間違いなく頭部無き体で処刑台をくだり、大通りを歩いて、仲間全員分――即ち百強の歩数を歩きとおしただろう"と。
優れた統率者の元には優れた海賊が集まる。
「ああ、こいつに付いてけば俺たちは喰いっぱぐれない」ってな、頭のいい奴はそう考える――まあ、海賊なんざやってる時点で頭が悪いのは間違い無いが。
だからそいつがおっ死んだ時の余波も当然大きい。規律の怪物、統制の鬼だったバーソロミュー・ロバーツが死んで、俺が生き抜いた海賊黄金期は完全に終わった。
そして、クラウス・シュテルテベーカーが死んだ時も、一度バルト海の海賊は終わりを迎えたらしい。
つまりは、俺は認めちゃいないが、それだけ奴の存在はバルト海の海賊にとってデカかったんだろうよ。
正直な話、俺がカルデアに来て心底驚いたことは、奴が未だに仲間意識の塊だったことだ。
あんな最期を迎えて、仲間は全部皆殺しだ。自分が免罪させたはずの十一人も約束を反故され、殺された。
それなのにどうしてまだ奴は仲間なんて信じてられるんだろうな? ああ、これは質問じゃない。ただの独り言だ。
さて、話はこれでおしまいだ。俺がこれ以上奴に関して話せることなんて無い。
しかし、どうして奴の話なんざ聞きたかったんだ? ……あ? 奴に告白された?
……おそらく、その情報の方が今までの俺の話の百倍価値があるだろうさ。
あの狂犬について知ってるか、だと?
ああ――まあ知っているには知っている。だが大したことは知っちゃいない。
時代も違えば管轄も違う。俺なんかよりもっと詳しく話せる奴が――居ない? あいつを一番知ってそうだったのが俺だった?
……まあいい。どうせ今は頼まれている仕事も無い。知っていることくらいは教えてやる。
――奴が活躍していた海はバルト海、スカンディナビアとヨーロッパに囲まれた狭苦しい海域だ。
俺がゴミ掃除してたカリブ海の海賊共はバッカニーアと呼ばれたが、あの海域ならば奴らの呼び名はヴァイキングに変わる。
まあ、シュテルテベーカーの時代にはすでに死語だった言葉だ――奴を正しく言うならヴァイキングの末裔、だろうな。
そして海賊としてのクラウス・シュテルテベーカー。
これは俺の所感になるが、少なくとも俺は奴を海賊として落第だと思っている。……怒ったか? だが事実だ。奴と比べればまだ俺の方が少しは海賊らしい。
私掠船でも無い癖に襲う船を選ぶような七面倒臭い海賊だ。何でも、奪われた奴が首を括らない程度の裕福な商船しか襲わなかったらしい。
挙句の果てに敵のはずのハンザ同盟と手を組んで、契約も一切違えずに食糧輸送なんて使い走りの仕事をこなし始めた。
何が『狂犬』だ、笑わせる。まるで質のいい忠犬だ。
最終的に奴は同盟を結んでいた騎士団・諸侯に裏切られ、食料輸送で助けてやったハンザ同盟に処刑された。本当に呆れる、見えていた結末だ。
だが、それなのに奴は船員百人を超える大海賊の長だった。信じられるか? 俺の知ってるゴミ共なら、こんな奴、軟弱者としてとっくに船長から追放されている。
海賊共は船長だろうが船員の多数決には絶対に逆らえない。
船員を増やせば増やすほど長の権限は薄まってくってのに、奴がどうやって最後まで船長で居続けられたのが俺には不思議でしょうがない。
なあ、お前は何でだと思う?
――そうか。まあ、そうかもな。
シュテルテベーカーの最も有名な逸話にこんな話がある。
『クラウス・シュテルテベーカーという海賊は処刑の間際にこう言った。「俺が首を落とされてから、歩いた歩数の数だけ手下を助けてくれ」
そう言った直後にクラウスは処刑された。すると、首の無いその死体はむくりと起き上がり、十一歩分歩いてから崩れ落ちた』
――これを美談だと、後の世の人間は語ってる。
だがこの逸話に関して、奴を拿捕せんと船を走らせていた同業者連中の意見はどうやら違ったらしい。奴ら曰く――
「なぁ、オイ。あのクラウス・シュテルテベーカーが、『死後歩いた分だけ仲間を助ける』って条件で――――たった十一歩しか歩けなかったらしいぜ」とさ。
当時の海賊討伐艦隊の共通の見解はこうだ。
"後ろ盾にあった騎士団の裏切りでシュテルテベーカーの心が揺れていなければ――
奴は間違いなく頭部無き体で処刑台をくだり、大通りを歩いて、仲間全員分――即ち百強の歩数を歩きとおしただろう"と。
優れた統率者の元には優れた海賊が集まる。
「ああ、こいつに付いてけば俺たちは喰いっぱぐれない」ってな、頭のいい奴はそう考える――まあ、海賊なんざやってる時点で頭が悪いのは間違い無いが。
だからそいつがおっ死んだ時の余波も当然大きい。規律の怪物、統制の鬼だったバーソロミュー・ロバーツが死んで、俺が生き抜いた海賊黄金期は完全に終わった。
そして、クラウス・シュテルテベーカーが死んだ時も、一度バルト海の海賊は終わりを迎えたらしい。
つまりは、俺は認めちゃいないが、それだけ奴の存在はバルト海の海賊にとってデカかったんだろうよ。
正直な話、俺がカルデアに来て心底驚いたことは、奴が未だに仲間意識の塊だったことだ。
あんな最期を迎えて、仲間は全部皆殺しだ。自分が免罪させたはずの十一人も約束を反故され、殺された。
それなのにどうしてまだ奴は仲間なんて信じてられるんだろうな? ああ、これは質問じゃない。ただの独り言だ。
さて、話はこれでおしまいだ。俺がこれ以上奴に関して話せることなんて無い。
しかし、どうして奴の話なんざ聞きたかったんだ? ……あ? 奴に告白された?
……おそらく、その情報の方が今までの俺の話の百倍価値があるだろうさ。
語り:調停・捕賊♂(中立・善)
このページへのコメント
下の人も言ってるけど、凄い出来のSSだと思うわ
かっこいいし、美談として語られているのは実はそうじゃない、みたいな展開の意外さもあるし
…………何より、普段のあいつとのギャップもあったしね
語り役の捕賊のルーラーの登場にも期待よ
読みやすくて、面白い。傑作です。
狂犬さんのかっこよさが伝わってきます。
こういった文章を書くのは私苦手で…参考にしたいです(カッ
狂犬を題材にしていただきありがとうございました!
他の方の目線で書いていただき色々と参考になりました。
取材の聞き取りみたいな感じで読みやすくて楽しく読めました!
最後にもう一度、書いていただきありがとうございました!