人理焼却は一切関係ないよ。元からだよ。
実はサーヴァント・ランサーは槍の方。しかも概念が槍の形になっただけで、本物のロンギヌスの槍ではない。
一部のスキルが無効になっていたり、記述が所々おかしくなっているのはそのため。だって自我すらないただの槍だもの。自分で動くことすら出来ない武具だもの。
さらに正確に言えば、宝具解放時に飛び出る先端部分が霊核なので、折られたり砕かれたり、少女が死亡してもランサー自身は内包された膨大な魔力で自己再生が可能。
そして一緒に召喚される少女に至っては、聖ロンギヌスどころかランサークラスでもなく、元をたどれば英霊の類ですらない。
かのゴルゴダの丘において、目隠しをされた状態で逸話における聖ロンギヌスと同じように、神の御子の反対の脇腹を突かされた一般人。
召喚時に本人が言ったように、サーヴァント・ランサーの所有者(およそ十数秒間)としてたまたま座に登録されただけの存在である。
更に言えば真名はロンギヌスの方なので、この少女は個人としての名前すら持っていない……が、親友から「シャフナッツ」という名を貰う。
アライメントの(秩序・善)もランサーの物であり、少女本人として考えた場合は(混沌・善)。
神殺しの槍を持ちながら、実は神の存在を心の底から信じていない。初対面の相手には神性を持っているか尋ね、肯定されればランサーを刺してみないかと提案してくる。
彼女曰く『神は全能で不老不死だそうですし、そしてこれは一応神殺しの槍です。刺されて死ねば神ではありませんし、刺されて生きれば神ではありません』
……完全に破綻した不在証明だが、彼女の中では筋の通った理論らしい。
また、努力や祈りによって他人が勝ち得たもの。あるいは自身の成果に対し、何の感慨も持てない。たまたま上手くいっただけでは、と醒めた感想すらある。
少女の来歴
幼少期に親と死に別れ、数年ほど親類を盥回しの末に奴隷として売買される。
古代ローマ軍のケントゥリア(百人隊)では兜や鎧を磨いたり、たまに寝床に引きずり込まれたりしていた。
当時は「頑張ればきっと報われる、苦難の先には神様の救いがある」と考え、日々を過ごしていた。
が、ある日詳しい説明もなく布で目を覆われ、槍を持たされて、上記の通り右脇腹を刺すことに。
そのまま槍を他の兵士に渡して、目隠しをされたまま丘から降ろされた数日後に奴隷の身から解き放たれる。ただし解放というよりも放逐に近い形で。
その後は手切れ金を擦り減らしながら、私娼紛いの生活を続けている内に死亡。
――行為は結果を呼ばず、努力は報われず、神の愛は最後まで感じられず。そんな自身の最期に彼女が感じたのは、怒りでも後悔でもなく、
『ああ、自分は居もしない誰かが幸せにしてくれると、勝手に思っていたんだ』という、諦観だった。
神の不在を胸に刻んだ少女はしかし、死後の安息すらも与えられなかった。神殺しの逸話で出来た、偽物の聖槍の所有者(ふぞくひん)として。