【R-18・酉】Fate/GO 我々はカルデアのサーヴァントのようです【安価】 - ユーリの日記 〜プロローグ〜

「君の任務は人理継続保障機関フィニス・カルデアへの諜報活動だ」

 いつものように彼は人影としか認識できない。

 私の組織の生みの親であり、雇い主であり、育ての親でもあり、誘拐犯でもある。

 そんな彼の命令に、私は逆らう意志も、動機も、これっぽっちも持ち合わせていなかった。

 だからただ一言――こう言った。

「はい」

「そこの所長がこれがまた曲者でね、こちらからの状況次第では暗殺する可能性も出てくる」

「はい」

「年中吹雪いているような雪山だが、私の渡した諜報礼装は優秀だ。常に持ち歩くように」

「はい」

 諜報礼装――。ビデオカメラ型のそれは音声・映像を彼に伝えることが出来る。

 さらに彼からの音声・映像も受信でき、通話できるすぐれものだ。

 加えて、それを所持しているという”認識”を当たり前のものへと上書きする能力もある。

 ――つまり、コレを持ってカルデア内を移動するだけで、簡単に諜報活動が出来るということだ。

 当然莫大な魔力を必要とするが、私は魔力量だけは自信がある。

 魔力量のためだけに、彼に誘拐され、教育され、使役されていると言っても過言ではない。

「それでは頼んだよ――ユーリ」

「はい」

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 不覚である。

 まさかあれほどまでに魔力を吸い取るものだとは思わなかった。

 おかげでレムレム――、おっと、あのバカの台詞が伝染ってしまった――、うたた寝をするとは一生の不覚。

 吹雪く雪山の登山で疲れていたというのもあるが。まったく。まったく。

 適当な妄言をほざいて、煙に巻くことにしよう。

 ぐだ子とはなんだ。頭バナナのくせに。ぐだ子とは。

 ――この真月という事務員は怪しいな。私と同じ臭いがする。ゲスの臭いというやつだ。

 セージ。こいつはバカのようだ。警戒する価値はなさそうだ。毒舌だが人当たりの良さが隠しきれてないぞバカめ。

 誰が脳みそクルクル尻軽売女だ。バーカ! バーカ! バーカ!

 ふぅ、やれやれムキになってはいけない。こういう時こそ大人な私がクールに接しなくては。

 って、ん? 警報? 所長のバカがなにかやらかしたの?

 おい、バナナバカ。私を置いていくんじゃない。バカのくせに生意気だぞ。そっちは危ないとセージが言ってただろ、バカか。

 あっつぅ! 辺り一面真っ赤っ赤! 燃えてるじゃねぇか! バカ! このバカ! 危ないから帰るぞバカ!!

 ――ってうわ、瓦礫!?

「いやだぁああああああああ!! 処女のまま死にたくなぁああああい!!」

 ――思わず叫んでしまった。いやたしかに男性経験があるわけではないけれど。

 辺りを見回すと、バナナバカが半死半生――ていうか真っ二つじゃんこれ!?

「お前は早く逃げろ……。この火災だ……。ここが封鎖されるぞ……」

 ………いや。

 …………いやいやいや。私はそんなにちょろくない。

 いくら訓練ばかりの人生でろくに人間関係が築けてなくて。

 それでいて自分を馬鹿みたいに演じてるような女だったとしても

 助けてもらったぐらいで惚れたりはしない。しないのだ。

 ――――だから、バナナバカ先輩の手を握っている理由は別にある。

「大丈夫ッスよ先輩。私、運良いから、こうしておけば助かりますよ! きっと!! いや確実に!」

 嘘だ。気休めだ。だって私運悪いもん。

「そんなことあるわけ無いだろ……。おまえ……。ほんと、頭軽いな……」

 そんなことはない。私は超重い女だ。体重的な意味ではなく。

 まぁほら、カルデアが滅亡しちゃったら、スパイの私も生きる意味ないしさ。

 だったら―――ほんのちょ〜〜〜〜っとだけ、気に入った奴の手でも握って死んだほうが。

 幸福でしょう?

「――レイシフトします」

「――レイシフトします」


FIN