最終更新:ID:Atr4PRmyvw 2016年08月14日(日) 04:14:19履歴
「君の任務は人理継続保障機関フィニス・カルデアへの諜報活動だ」
いつものように彼は人影としか認識できない。
私の組織の生みの親であり、雇い主であり、育ての親でもあり、誘拐犯でもある。
そんな彼の命令に、私は逆らう意志も、動機も、これっぽっちも持ち合わせていなかった。
だからただ一言――こう言った。
「はい」
「そこの所長がこれがまた曲者でね、こちらからの状況次第では暗殺する可能性も出てくる」
「はい」
「年中吹雪いているような雪山だが、私の渡した諜報礼装は優秀だ。常に持ち歩くように」
「はい」
諜報礼装――。ビデオカメラ型のそれは音声・映像を彼に伝えることが出来る。
さらに彼からの音声・映像も受信でき、通話できるすぐれものだ。
加えて、それを所持しているという”認識”を当たり前のものへと上書きする能力もある。
――つまり、コレを持ってカルデア内を移動するだけで、簡単に諜報活動が出来るということだ。
当然莫大な魔力を必要とするが、私は魔力量だけは自信がある。
魔力量のためだけに、彼に誘拐され、教育され、使役されていると言っても過言ではない。
「それでは頼んだよ――ユーリ」
「はい」
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不覚である。
まさかあれほどまでに魔力を吸い取るものだとは思わなかった。
おかげでレムレム――、おっと、あのバカの台詞が伝染ってしまった――、うたた寝をするとは一生の不覚。
吹雪く雪山の登山で疲れていたというのもあるが。まったく。まったく。
適当な妄言をほざいて、煙に巻くことにしよう。
ぐだ子とはなんだ。頭バナナのくせに。ぐだ子とは。
――この真月という事務員は怪しいな。私と同じ臭いがする。ゲスの臭いというやつだ。
セージ。こいつはバカのようだ。警戒する価値はなさそうだ。毒舌だが人当たりの良さが隠しきれてないぞバカめ。
誰が脳みそクルクル尻軽売女だ。バーカ! バーカ! バーカ!
ふぅ、やれやれムキになってはいけない。こういう時こそ大人な私がクールに接しなくては。
って、ん? 警報? 所長のバカがなにかやらかしたの?
おい、バナナバカ。私を置いていくんじゃない。バカのくせに生意気だぞ。そっちは危ないとセージが言ってただろ、バカか。
あっつぅ! 辺り一面真っ赤っ赤! 燃えてるじゃねぇか! バカ! このバカ! 危ないから帰るぞバカ!!
――ってうわ、瓦礫!?
「いやだぁああああああああ!! 処女のまま死にたくなぁああああい!!」
――思わず叫んでしまった。いやたしかに男性経験があるわけではないけれど。
辺りを見回すと、バナナバカが半死半生――ていうか真っ二つじゃんこれ!?
「お前は早く逃げろ……。この火災だ……。ここが封鎖されるぞ……」
………いや。
…………いやいやいや。私はそんなにちょろくない。
いくら訓練ばかりの人生でろくに人間関係が築けてなくて。
それでいて自分を馬鹿みたいに演じてるような女だったとしても
助けてもらったぐらいで惚れたりはしない。しないのだ。
――――だから、バナナバカ先輩の手を握っている理由は別にある。
「大丈夫ッスよ先輩。私、運良いから、こうしておけば助かりますよ! きっと!! いや確実に!」
嘘だ。気休めだ。だって私運悪いもん。
「そんなことあるわけ無いだろ……。おまえ……。ほんと、頭軽いな……」
そんなことはない。私は超重い女だ。体重的な意味ではなく。
まぁほら、カルデアが滅亡しちゃったら、スパイの私も生きる意味ないしさ。
だったら―――ほんのちょ〜〜〜〜っとだけ、気に入った奴の手でも握って死んだほうが。
幸福でしょう?
「――レイシフトします」
「――レイシフトします」
FIN
このページへのコメント
あれ、この子ひょっとして良い子……!?
わたしとしてはゲスくてもそれはそれで悪くないかなって感じだったんだけど、
これはさらにかわいく見えてきちゃったかもしれない……!
自分がゲスだっていう自覚はあるのか(困惑
ともあれマスターが実は裏でしっかり考えて行動しているというのが理解できたから安心してついて行ける!
そしてかわいい
おかしい……マスターなのに可愛く見える……!